ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノは、やはりケダモノでした

妻じゃありませんってばっ

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「もう~。
 信じられないです~。

 あんなデッカイベッドを。

 しかも、お兄様のベッドを処分してしまって」

「お前のも捨てろと言ったのにな」

「私のは此処に元からあったのですから」

 もう~、明日実はリビングで飛び跳ねる。

 貴継の買ったベッドは大き過ぎて、一度分解しないと入らなかったのだ。

「危うく、窓から吊るさないといけないところでしたよ。
 こんな高さじゃ、幾らかかったか」

「いいじゃないか。

 お前、好きだろ。
 車とか、クレーンとか」

「いやあの、はたらく車が好きなわけじゃないんですけど」

「自分の妻の名前は間違えないぞ」

 そう言いながら、腰をつかんで抱き上げてくる。

 子どもに高い高いをするように。

「妻じゃありませんってばっ」
と叫ぶが、聞いていない。

「だが、今日はずっと指輪やってたじゃないか」

「外すと文句言われるからですよ。
 っていうか、もしや、これ、婚約指輪とか?」
と怯えて訊いてみると、

「これが婚約指輪とか、お前の親に失礼だし、顕人にも笑われるだろう?」
と言ってくる。

「そうですか?
 私は結構気に入ってるんですけど」

 これじゃ、いけませんか? と訊いてみた。

「貴継さんのお父様が勧めてくださったものですし」
と言うと、

「そうか。
 じゃあ、お前はそれを婚約指輪だと思ってつけてるわけだな」
と言われてしまう。

「い、いえっ。
 そういうわけではないんですけどっ。

 実は、可愛いので、結構気に入っています。

 だから、安いからといって、これではいけないと言うのはおかしいかと」

 そう言うと、貴継は笑った。

 でも、ちょっと嬉しかった。

 安い指輪では、両親に対して申し訳ないと言ってくれたことが。

 きちんと親のことまで考えてくれている気がしたからだ。

 ……だからと言って、このまま貴継と結婚したいというわけではないのだが。

「本当に可愛いな、明日実は。
 よく今まで売れ残っててくれたな」

 そう微笑みかけてくる貴継に、
「あの……そういう言われ方はちょっと不愉快なんですが」
と訴える。

「それを言うなら、貴継さんは、何故、今までおひとりだったんですか?

 あ、誰かお相手がいらっしゃったんですか?」

「お相手がいらっしゃったのに、お前にこんなことしてたら、大問題だろう」

 まあ、それはそうか、と思っていると、貴継は明日実を膝に抱えて座り、
「誰か居たらどうする?」
と訊いてくる。

「別れます。
 あ、忘れますって、付き合ってるわけじゃないですけど。

 出て行ってもらいます。

 そんな不誠実な人は嫌ですから」
と言うと、

「不誠実とかそういう問題じゃないんじゃないのか?
 俺に、お前の前に誰か居たら嫌なんだろう?」
と機嫌良く言ってくる。

「本当に違いますってばっ。
 私、もうお風呂入って寝ますっ。
 
 明日も研修ですからっ」

 頑張りますっ、と言うと、

「それはいい心がけだな。
 ……職場では、もちろん、容赦はしないからな」
と突然、部長の顔で言ってくる。

 ひいっ、と逃げるように脱衣場に駆け込んだ。
 


「明日実……?」

 明日実のあと、貴継が風呂から出ると、明日実の部屋は、本当に真っ暗だった。

 もう寝たのか。

 今度居ない間に、このベッド捨てといてやろう。

 そしたら、俺と寝るしかなくなるからな、とほくそ笑みながら、ベッドに腰掛け、すやすやと眠っている明日実を眺める。

 今日は疲れていたのか、外しそびれたらしく、イルカのリングは指につけたままだった。

 ちょっと笑う。

 ……だが、気に入らんな、と思った。

 明日実が右の薬指にはめているその指輪を左の薬指にはめ直す。

 手をつかまれたせいか、明日実が寝返りを打った。

 おっと、と思ったが、そのまま寝ている。

 あどけないその寝顔を覗き込んだ。


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…………………………………………………………………寝かしといてやるか。



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