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ケダモノは、やはりケダモノでした
すべての罪は私にあります
しおりを挟む食後、みんなと話したあとで、職場に戻ろうとロビーを通っていると、誰か来ていたのか、さっきまで此処の喫茶でお茶を飲んでいたらしい貴継に手招きされる。
側に行くと、
「黒崎となに楽しそうに話してた」
と訊かれる。
「え?
社食にいらっしゃいました?」
いや、廊下から見えた、と貴継は言う。
「ちゃんとお昼食べてらっしゃいますか?」
と明日実が眉をひそめると、
「客が来る前にトーストを食べた」
と言う。
そんなので大丈夫かなあ、と思いながら、
「黒崎部長は、お父様はアシカを見る目があるとおっしゃってました」
と言うと、
「仕事は出来ないが、と言っていただろう」
と笑う。
「まあ、そう言い続けないと、社長のクーデターに手を貸した連中は胸が痛むだろうからな」
「そうだったんですか。
黒崎部長も。
っていうか、本当にクーデターだったんですか?
社長は温厚そうな方ですが」
「あれは担ぎ出されただけかもしれないけどな」
「いや、私が言い出したんですよ、貴継くん」
と社長の声がした。
ふりむくと、一見、地蔵にも見える人の良さそうな社長が立っていた。
「すべての罪は私にあります。
だから、君が私を追い落とすのなら、それもいいでしょう、と思って、君をこの会社に入れました」
社長が去ったあと、
「心が広いですね~、社長」
と社長が消えた渡り廊下の方を見ながら明日実が呟くと、
「俺が狭いように聞こえるんだが」
と言ってくる。
「違いますか?」
「不愉快だ。
今日は顔も見たくない」
「じゃあ、出てってください」
あれは私の家ですが、と思いながら、そう言うと、
「なんでだ。
今日こそ、あのベッドを使おうと思ったのに」
と訴えてくる。
「じゃあ、ベッド持って出てってください。
私、分解しときます。
実は得意なんです、そういうの」
「まあ、はたらく車が好きな女だからな」
「だからー、違いますってばー」
「お前と使おうと思って買ったのに」
と恨みがましく言ってくるので、
「私の顔も見たくないんじゃなかったんですか?」
と言ってやると、
「灯りは消すから大丈夫だ」
と言ってくる。
えーと……。
「それはさておき、今日こそ、作るぞ。
炙りサーモン」
簡単に、さておかれてしまいましたよ、と思いながら、
「クレームブリュレじゃなかったんですか?」
と訊くと、
「それじゃ、おかずにならんだろうが」
と言われた。
「俺が帰るまで、ご飯作るの待ってろよ」
「えーっ。
遅くなりませんっ?」
残業はないようにしているとは言っても、遅くなることも多いのでそう問うと、
「なるかもな」
と言う。
「わかった。
カップ麺を食べて待つことを許そう」
「……いや、貴方に許可されなくても食べますよ」
まったくもう~、と文句を言ったが、待たないという選択肢はなかったせいか、笑っていた。
「知ってました?
バーナーなくても、熱したスプーンで出来るんですよ、クレームブリュレ」
「出来ても使え。
バーナーを使いたいがための料理だ。
そして、今日は炙りサーモンだ」
帰ったら買い物に行こうと言い出す。
「そこからですか」
「いいじゃないか
深夜のスーパー楽しいぞ。
世界は俺のものって感じで」
深夜、人気のないスーパーでカートを押しながら、高笑いしている貴継の姿が浮かんだ。
なんだかんだで、結構、お手軽に人生を楽しめる人だな、と思う。
喧嘩しててもすぐ忘れるし、一緒に暮らしていて、嫌な感じがしないというか……。
ああっ。
しまったっ。
乗せられているっ、と動揺する。
このまま物凄い勢いで流されていきそうな気がする、と思いながら、先程から疑問に思っていたことを訊いてみた。
「ところで、なんで私、薬指にイルカをはめてるんでしょう?」
「お前、今まで気づかなかったのか。
了承して、はめてるもんだと思ってた」
あと、イルカをはめてるっておかしくないか? と書類を直すように細かいことを言ってくる。
そのまま、二人で並んで渡り廊下を歩いた。
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