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ケダモノは、やはりケダモノでした
恐ろしい男だ……
しおりを挟むなんとなく怖い男だ、稲本顕人、と貴継は思っていた。
とりあえず、明日実を見る目つきが怖い……。
よくこれで今まで明日実は気づかなかったな、と思う。
まあ、鈍いからな。
就職試験を受けに此処に来たときも、俺が今の顕人みたいに、ストーカーのように物陰から見ていたのにも気づかなかったようだし。
そんなことを考えながら、
「お前、本当に明日実が好きなんだな」
と顕人に言うと、
「好きだ。
でも無理だ。
俺はあいつの兄なんだから」
と顕人は言う。
「それ、伏せといていいか」
と言うと、
「だから、最初に伏せとけと言っただろ」
と睨まれた。
「そりゃ、伏せとくさ。
問題なのは、お前が兄だってことじゃなくて、明日実を好きだってことだからな」
「いや……兄だってことの方が問題だろ。
言えば、お前に有利だし」
と言われ、
「なんでだ」
と言うと、顕人は、なんでだって、なんでだ? という顔をした。
「まあ、兄妹だと、多少問題はあるかもしれないが」
「多少じゃないだろ」
「俺なら、明日実が妹でもひるまない」
「いや……、ひるめ」
お前おかしいぞ、と今、自分が、最もおかしい、と思っている男に言われてしまう。
「なんでだ。
法律なんて、昔の人間が勝手に作ったものだ。
俺は明日実が好きだ。
明日実も俺が好きだろう。
これ以外に真実はない」
と言い切ると、
「お前にモラルってものはないのか」
と言ったあとで、……恐ろしい男だ、と呟いていた。
だが、明日実が居たら、違うところに引っかかっていただろうな、と思ってしまう。
『誰が貴方を好きって言いましたかーっ』
そう言って、飛び跳ねていたに違いない。
リアルに想像できるその姿に、ちょっと笑ってしまった。
顕人が去ったあと、席に戻ろうとすると、明日実が書類を手にやってきた。
ハンコをもらうのを口実に話しかけてくる。
「部長、なんでおにいさまが此処に」
「なにか仕事で大和のところに来たらしいぞ」
と言いながら、ちょうど、ポケットにあったハンコをついてやった。
そうですか、と明日実は振り返っている。
「まだあいつのことが気になるのか」
と言うと、
「だって、おにいさまですから」
と言う。
「……あいつの結婚相手とか気になるか?」
「おにいさまの婚約者の方は、きっと美人でショートカットで、諸芸百般に優れていて、おほほほほって感じです」
と明日実は淡々と告げてくる。
「なんだ、それは……」
私の想像です、と明日実は言った。
「妄想の中で、なんで、いつも、その方がショートヘアなのか考えてみました。
きっと、私がロングだからです。
おにいさまは私とは正反対の方がお好みなのだろうと思って」
いや、ど真ん中ストレートにお前がお好みのようなんだが、と思ったが、もちろん言わなかった。
「天野部長」
と声がして、振り返ると、社長が立っていた。
「例の件、そろそろいいよ」
と笑顔で軽く言ってくる。
明日実の言う通り、俺はこの人に負けてるな、とこんなとき、ちょっと思う。
「わかりました」
と言うと、社長は頷き、去っていった。
振り返り見ながら、明日実が、
「社長は、あれだけ喧嘩を売られて、よく貴方と普通に口がきけますね」
と感心したように言ってくるので、
「先に喧嘩を売ってきたのは、あっちだ」
さあ、席へ戻れ、と明日実を追い立てた。
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