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ケダモノは、やはりケダモノでした
情けをかけたのが運の尽き
しおりを挟むスマホが鳴ってる。
明日実は反射で起きようとしたが、起きられなかった。
誰かにキスされていたからだ。
「はっ、離してくださいーっ」
まだスマホは鳴っている。
貴継が振り返り、舌打ちをしていた。
「電源落とすの忘れてたな」
と呟いている。
「なにしてるんですかっ。
なんで、ボタンはずれてるんですかっ。
やっぱり、ケダモノですねっ。
満腹にさせて、普段呑まない酒を呑ませて、ベッドに運んでっ」
「お前が買ったんだろっ、ケダモノを148円でっ。
っていうか、くそーっ。
二十分も迷ったからっ」
酔いが冷めたか、とわめいている。
「ちょっと可哀想かと思って、情けをかけたのが運の尽きだ。
此処まで我慢した俺に免じて、今日はお前の貞操は諦めろ」
「なな、なに言ってるんですかっ。
こんなの犯罪ですよ。
泥酔させて」
「お前は俺の婚約者だろうがっ。
婚約指輪もはめているっ」
「ええっ? じゃあ、外しますっ」
と明日実は指輪を外し、投げようとした。
だが、シルバーのイルカはこちらを見て、微笑んでいる。
……微笑んでいる
……微笑んでいる
ように見える。
な、投げられないっ。
投げずに項垂れた明日実を見て、貴継が言う。
「キャンディさん、ありがとう」
「キャンディさんはアシカですよ……」
膝を抱えていじける明日実に、貴継は、
「わかった。
同意の上でやろう」
と言ってくる。
「嫌です」
「今日がいいんだ」
「何故ですか」
「近いうちにいろいろあるんだ。
そのために、お前を人事部付にしたんだ」
と貴継は言う。
「それでもまだ、駄目だと言うのなら、何故、しては駄目なのか。理由を述べよ」
「は?」
「箇条書きで5つだ」
「就職試験ですかっ、これはっ」
「はい。
5……
4……
3……
2……
1……」
ええっ? とよく考えたら、別に従わなくてもいいのに、慌てふためいたとき、またスマホが鳴り出した。
「顕人だろっ。
出なくていいっ」
くそっ、やっぱり着信拒否にしとくんだった、と言うので、
「なんでしなかったんですか?」
と訊くと、
「いや、なんだか、顕人の悲しげな顔が浮かんでできなかった」
と言ってくる。
「貴方、たぶん、おにいさまより、人がいいですね……」
と言いながら、スマホを取りに行こうとすると、腕をつかまれた。
「この状況で半裸でかけ直すとか、お前、どんな変態だっ」
電話がつながっても、俺はやめないぞ、とロクでもないことを言い出す。
スマホじゃなくて、バーナーを取ってこようかな、と思った。
もう一度、明日実を引き倒した貴継が言う。
「……悪いことは言わない。
顕人はやめておけ」
すぐそこにある貴継の唇から発せられた言葉に、明日実は言った。
「何故ですか?」
「これを言うと卑怯になる」
「……おにいさまが私のおにいさまだってことですか?」
え? という顔を貴継はした。
スマホはまだ鳴っている。
「知っていました。
おにいさまが私の実の兄なのだと」
貴継は自分を見つめている。
「おじいさまと話してらっしゃるの、聞きましたから」
スマホが鳴り止んだ。
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