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ケダモノは、やはりケダモノでした
なにをやらかすつもりなんですか?
しおりを挟むいつものように仕事をしながら、明日実は貴継を窺う。
昨日の話が気になっていたからだ。
貴継は、此処まで来たのに、やめられるか、という感じだったが。
なにが何処まで来たんだ、と思いながら、ときどきパソコンの画面から視線を貴継にスライドさせていた。
男性社員が貴継のところになにか相談に行き、それに貴継が的確に答えている。
頷きながら聞いている男性社員は、溢れんばかりの尊敬の眼差しを貴継に向けていた。
いや、確かに、会社では、颯爽としてるんだよなー。
……家ではただのケダモノだけど、とその嘘くさいくらい爽やかな笑顔を眺めていると、
「天野部長」
と部署の入り口から社長が呼ぶ。
む? と明日実はそちらを注視した。
二人はなにか話しているようだった。
貴継は淡々とそれを聞いている。
気になる。
……めちゃめちゃ気になるっ!
だが、今、問い詰めに行くわけにもな、と思いながら、眺めていると、
「あずみん」
と声がした。
顔を上げると、栗原が立っていた。
「ごめん。
人事に出す書類、忘れてたのがあって」
と言われ、
「ああ、はい」
と受け取ったあとで、ん? あずみん? と思う。
「……あずみん?」
と訊き返すと、
「君のあだ名は、あずみんに決まったんだよ」
と栗原は笑顔で言ってくる。
いつ!?
「昨日、会社近くに住んでる男連中だけで、呑んだんだけど。
あずみんのコードネームは、あずみんに決まったから」
なんだ。
コードネームって。
なんの組織だ、と思いながら、
「じゃあ、栗原くんは、くりりん?」
と訊くと、
「なんでだよ」
と苦笑いされる。
じゃあね、と栗原が手を振って行ったあと、近くの女性社員の人が椅子を滑らせながらやってきた。
「今の、同期の子よね。
可愛いわね。
彼女居るの?」
と訊かれた。
栗原くん、おねえさまに狙われてますよ、と苦笑しながら、
「さあ、どうなんでしょう。
今度訊いときますね」
と答えた。
「頼むわよ」
とおねえさまに言われたとき、社長と別れた貴継が席に戻るのが見えた。
トイレに行こうと席を立つと、廊下で貴継が声をかけてきた。
「おい、あずみん」
ひいっ、と辺りを見回す。
もちろん、誰も居ないのを見ての所業のようだったが。
な、なんで知ってるんだ、そのコードネーム(?)を、と思っていると、
「なに、あずみんとか気安く呼ばれてチャラチャラしてるんだ」
尻軽だな、と怒られる。
「あの……勝手に呼ばれることに決まってたものをどうしようもないと思うんですが。
っていうか、何処から聞いてたんですか」
どんな地獄耳ですか、と言うと、
「俺も呼んでやるぞ、あずみん」
と言い出した。
「や、やめてください。
キャラじゃないですよ、そんなっ」
と明日実は両耳を押さえるが、貴継は、その手を引きはがそうとする。
「手を離せ、あずみん」
「やめてください。
人が来たらどうするんですかっ」
「なにを言っている。
社長だって、家に帰ったら、奥さんのことを、かえたん、とか呼んでるぞ」
「なんで社長の家の中のことを知ってるんですか」
と言うと、
「小さいときは遊びに行ってたからだ」
と言う。
あっ、誰か来たっ、と隣りの部署から誰か出て来たのを見て言ったときには、貴継は完全に手を離していて、何故か明日実は叱られていた。
「少し来るのが遅いんじゃないか?
研修中なんだから、私よりも早く、一番乗りに来るくらいじゃないとな、佐野くん」
いや、待て。
お前が乗せて来てるんだろうが~っ、と呪う。
貴方より早く来いと言うのなら、貴方を家の椅子に縛り付けてから出ますよ、とか思っている間に、また誰も居なくなった。
訊くなら、今だ、と思い、さっきのことを訊いてみた。
「貴継さん、社長となにを話されてたんですか?」
「別に。
今後のことだ」
と素っ気なく言ってくるので、
「社内で、なにかやらかすつもりなんですか?
やめた方がいいと思いますが」
と言うと、貴継は少し真面目な顔で言ってきた。
「お前の言うことにも一理ある。
だが、俺はもう立ち止まれない」
「えっ」
「この件に関しては、もう、お前も口を出すな」
そう言いながら、貴継は、ぽんぽん、と明日実の頭を叩いた。
小さな子に言い聞かすように。
そのとき、エレベーターが開いて、誰か降りてきた。
まずい、と思ったが、黒崎部長だった。
「なんだ」
「なんだ。
黒崎部長じゃないですか」
と思わず、二人で言ってしまうと、
「なんだって、なんだ。
私だったらいいと言うわけじゃないぞ」
社内でいちゃつくな、と顔をしかめて言ってくる。
貴継は、そのまま、エレベーターに乗っていってしまった。
それを何故か一緒に見送った黒崎は溜息をついて言ってきた。
「あれな、止めた方がいいぞ」
「えっ」
どういう意味ですか?
と言いかけたとき、常務がやってきたので、口を閉ざして、二人で頭を下げる。
黒崎はそれを目で追ったあと、じゃあ、と言って、行ってしまった。
なんなんだろう。
ますます不安になってきた。
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