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ケダモノが膝を抱えています
それ、貴方の妄想ですよね?
しおりを挟む「……あんた、知ってんのか」
明日実は頭の上で、貴継の声がするのを聞いていた。
「顕人が……」
いや、なんでもない、と貴継は言った。
女の笑い声が聞こえる。
「知ってるわよ。
そっくりじゃないの。
あら?
まさか、そんなことで怯んでたの? 顕人は。
どうせ、戸籍上は他人じゃない」
「あんた俺と似てるな」
どうしよう。
貴継さんが誰か女の方と好意的な感じで会話しています。
誰か……
聞き覚えのある声なのに、なんだか動転していてわからない~っ。
ぼんやり聞こえてくる二人の会話に、明日実は夢を見つつ、うなされていた。
またあのダンジョンでIDカードをつけた小人と狼と居たのだが。
上からもれ聞こえてくる声が気になって、ずっとそちらばかり向いていたので、後ろから小人にハリセンで叩かれた。
手作りのハリセンのようだ。
結構痛い。
浮気ですーっ。
許しませんーつ。
「もう寝かせたら? その子」
「いや……なんかガッチリつかんで離さないんだが」
「振りほどきなさいよ」
嫌ですーっ、と明日実は貴継の腕らしきものをつかむ。
「ほんとに寝てんの? それ」
と笑ったあとで、
「いいじゃないの。
振りほどいてお姫様抱っこでもしてあげなさいよ。
女の子の夢よ」
と言うのが聞こえた。
「でも、本人寝てるしな」
「ああ、私もして欲しいわ。
あら、あなた。
私もして欲しいなー、お姫様抱っこ」
「あと5キロ痩せたらね、おやすみ」
「……笑顔でロクなこと言わないんだから」
貴継が笑うのが聞こえた。
「明日実。
こら、明日実、離せ」
貴継は明日実を客間のベッドに降ろしたが、明日実は腕を離さないまま、何故か苦悶の表情を浮かべている。
……これは、起こしてやった方が親切だろうかな。
明日実の上に乗り、鼻をつまみ、キスしてみる。
息が出来なくなったらしい明日実が暴れ出した。
「ひっ、人殺しーっ」
と手を離すと、飛び起きる。
「おはよう。
深夜に迷惑な奴だな」
「た、貴継さんっ?」
あれっ? と明日実は辺りを見回す。
「今、小人になった大和さんに切符切ってもらって、笹原さんと名古屋に行って、味噌カツ食べてました」
「超能力か」
さっき、笹原と食ったぞ、と言うと、
「笹原さんといらしてたのですか」
と言った明日実は、ちょっとほっとした顔をしたあとで、
「今、悪い夢を見てました」
と言い出す。
「どんな?」
「貴継さんが浮気している夢です」
「へー、悪い夢なのか、それ」
と笑ったが、明日実はなにを笑われているのかわからないようで、
「だって、今、誰かと楽しそうに話してたじゃないですかっ」
と必死に訴えてくる。
「あっ、あれって、鏡花さんですかっ?」
もしかしてっ、と言う明日実に、
「そうかもな」
と答える。
莫迦だな、お前の話だから盛り上がってただけだ、と笑いを堪えていたが、少しは寂しがらせろ、という鏡花の教えに従い、言わなかった。
「もう~っ。
降りてください。
私の上から~っ」
「わざわざ名古屋から飛んできて、また朝一で帰る俺に、その態度は酷いんじゃないのか?」
「じゃあ、さっさと寝てくださいっ」
「此処、ベッドはひとつしかないが、一緒に寝ていいのか?」
「そっから先が貴継さんの陣地ですっ」
と明日実は身体の大きさを考えてか、3分の2をこちらの陣地にしてくれる。
しかし、陣地って、子どもか、と貴継は笑った。
「いいのか、明日実。
そんなに邪険にしていると、浮気するぞ」
明日実の顎に手をかけ、そう言い、笑うと、明日実は視線をそらし、
「すればいいじゃないですか」
と言ったあと、まさしく子どものように、へへんだ、という顔をする。
「じゃあ、して来よう」
と立ち上がった。
「あの人、別に俺でもオッケーそうだったぞ」
と行こうとすると、
「鏡花さんはそんな人ではないですっ」
と明日実に腕をつかまれる。
「そうか?
どんなに尊敬している相手でも、そういうのは別だったりするだろ。
立派な人だが、女癖は悪いとか」
立派でないうえに女癖の悪い人が、なにか言っている、と明日実は貴継の腕をつかみ、見上げていた。
「俺に居て欲しいか」
と勝ち誇ったように言ってくるので、カチンと来て、顔をそらした。
「別にいいです。
どっちでも」
「じゃあ、手を離せ」
「嫌です」
「じゃあ、行っていいか」
「嫌です。
貴継さんなんて、フラれるに決まってます」
と言いながら、その腕をつかんでいた。
貴継は少し笑い、側に腰を下ろしてくる。
視線をそらした自分に囁いてくる。
「さっきの話、聞いてたんだろう」
「小人さんと狼さんと聞いてました」
振り向かないまま言うと、だからなんなんだそれは、と言いながら、貴継は昨日の夜のように頭を撫でてくる。
「莫迦だな。
あの人と俺の物の考え方がちょっと似てると言っただけだ。
人は自分と同じものは好きにはならない」
だが、そこで少し考え、言い出した。
「顕人はなんでお前なんだろうな?」
どっちも間が抜けている気がするが、と。
「どさくざ紛れにおにいさまを悪く言わないでください」
「悪くは言っていない。
お前と一緒で間が抜けていて、なんだか憎めないという話だ」
恋敵なのにな、と呟いていた。
貴継は明日実の頭をぽんぽんと叩きながら言ってくる。
「いい加減、諦めろ、明日実。
お前は俺が好きなんだ」
「そんな自信満々に言うような人は嫌いです」
と明日実は貴継を見ないまま言った。
「じゃあ、顕人みたいに勝手に鍵を開けて入って、寝てるお前をひっそり見つめてるような男がいいのか」
「……それ、貴方の妄想ですよね?」
「妄想だ」
だが、やりかねん、と貴継は言う。
「第一、お前は顕人の指輪はしないが、俺のやった指輪はなんだかんだで外さないじゃないか」
「イ、イルカが可愛いからって言ったじゃないですか」
と言いながら、貴継の側からじりじりと座る場所をずらして逃げていく。
「……ほんとにお前は往生際が悪いな」
「だって、なんだかわからないうちに、ガンガン押してこられて、これで、コロッと貴方を好きになったりしたら、私、とんでもなく単純な女ってことじゃないですか?」
「いや、だから、とんでもなく単純な女なんだろ?」
うっ。
そこは否定して欲しかった、と思いながら、まだ逃げていたのだが、端まで来て、ヘッドボードにぶつかってしまう。
「明日実」
とヘッドボードの上の壁に手をつき、貴継は言ってくる。
「大丈夫だ。
人様の家だから、ご無体な真似はしない」
本当か? と窺うように貴継を見た。
「ただ……お前を抱き締めて眠っていたいだけだ」
そう言いながら、口づけてくる。
だんだん、なんで逆らってるのかわからなくなってきたような、と思いながら、明日実は貴継の口づけを受けていた。
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