ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノが膝を抱えています

それ、貴方の妄想ですよね?

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「……あんた、知ってんのか」

 明日実は頭の上で、貴継の声がするのを聞いていた。

「顕人が……」

 いや、なんでもない、と貴継は言った。

 女の笑い声が聞こえる。

「知ってるわよ。
 そっくりじゃないの。

 あら?
 まさか、そんなことでひるんでたの? 顕人は。

 どうせ、戸籍上は他人じゃない」

「あんた俺と似てるな」

 どうしよう。

 貴継さんが誰か女の方と好意的な感じで会話しています。

 誰か……

 聞き覚えのある声なのに、なんだか動転していてわからない~っ。

 ぼんやり聞こえてくる二人の会話に、明日実は夢を見つつ、うなされていた。

 またあのダンジョンでIDカードをつけた小人と狼と居たのだが。

 上からもれ聞こえてくる声が気になって、ずっとそちらばかり向いていたので、後ろから小人にハリセンで叩かれた。

 手作りのハリセンのようだ。

 結構痛い。

 浮気ですーっ。

 許しませんーつ。

「もう寝かせたら? その子」

「いや……なんかガッチリつかんで離さないんだが」

「振りほどきなさいよ」

 嫌ですーっ、と明日実は貴継の腕らしきものをつかむ。

「ほんとに寝てんの? それ」
と笑ったあとで、

「いいじゃないの。
 振りほどいてお姫様抱っこでもしてあげなさいよ。

 女の子の夢よ」
と言うのが聞こえた。

「でも、本人寝てるしな」

「ああ、私もして欲しいわ。

 あら、あなた。
 私もして欲しいなー、お姫様抱っこ」

「あと5キロ痩せたらね、おやすみ」

「……笑顔でロクなこと言わないんだから」

 貴継が笑うのが聞こえた。
 


「明日実。
 こら、明日実、離せ」

 貴継は明日実を客間のベッドに降ろしたが、明日実は腕を離さないまま、何故か苦悶の表情を浮かべている。

 ……これは、起こしてやった方が親切だろうかな。

 明日実の上に乗り、鼻をつまみ、キスしてみる。

 息が出来なくなったらしい明日実が暴れ出した。

「ひっ、人殺しーっ」
と手を離すと、飛び起きる。

「おはよう。
 深夜に迷惑な奴だな」

「た、貴継さんっ?」

 あれっ? と明日実は辺りを見回す。

「今、小人になった大和さんに切符切ってもらって、笹原さんと名古屋に行って、味噌カツ食べてました」

「超能力か」

 さっき、笹原と食ったぞ、と言うと、
「笹原さんといらしてたのですか」
と言った明日実は、ちょっとほっとした顔をしたあとで、

「今、悪い夢を見てました」
と言い出す。

「どんな?」

「貴継さんが浮気している夢です」

「へー、悪い夢なのか、それ」
と笑ったが、明日実はなにを笑われているのかわからないようで、

「だって、今、誰かと楽しそうに話してたじゃないですかっ」
と必死に訴えてくる。

「あっ、あれって、鏡花さんですかっ?」

 もしかしてっ、と言う明日実に、
「そうかもな」
と答える。

 莫迦だな、お前の話だから盛り上がってただけだ、と笑いを堪えていたが、少しは寂しがらせろ、という鏡花の教えに従い、言わなかった。

「もう~っ。
 降りてください。
 私の上から~っ」

「わざわざ名古屋から飛んできて、また朝一で帰る俺に、その態度は酷いんじゃないのか?」

「じゃあ、さっさと寝てくださいっ」

「此処、ベッドはひとつしかないが、一緒に寝ていいのか?」

「そっから先が貴継さんの陣地ですっ」
と明日実は身体の大きさを考えてか、3分の2をこちらの陣地にしてくれる。

 しかし、陣地って、子どもか、と貴継は笑った。

「いいのか、明日実。
 そんなに邪険にしていると、浮気するぞ」

 明日実の顎に手をかけ、そう言い、笑うと、明日実は視線をそらし、
「すればいいじゃないですか」
と言ったあと、まさしく子どものように、へへんだ、という顔をする。

「じゃあ、して来よう」
と立ち上がった。

「あの人、別に俺でもオッケーそうだったぞ」
と行こうとすると、

「鏡花さんはそんな人ではないですっ」
と明日実に腕をつかまれる。

「そうか?
 どんなに尊敬している相手でも、そういうのは別だったりするだろ。

 立派な人だが、女癖は悪いとか」



 立派でないうえに女癖の悪い人が、なにか言っている、と明日実は貴継の腕をつかみ、見上げていた。

「俺に居て欲しいか」
と勝ち誇ったように言ってくるので、カチンと来て、顔をそらした。

「別にいいです。
 どっちでも」

「じゃあ、手を離せ」

「嫌です」

「じゃあ、行っていいか」

「嫌です。
 貴継さんなんて、フラれるに決まってます」
と言いながら、その腕をつかんでいた。

 貴継は少し笑い、側に腰を下ろしてくる。

 視線をそらした自分に囁いてくる。

「さっきの話、聞いてたんだろう」

「小人さんと狼さんと聞いてました」

 振り向かないまま言うと、だからなんなんだそれは、と言いながら、貴継は昨日の夜のように頭を撫でてくる。

「莫迦だな。
 あの人と俺の物の考え方がちょっと似てると言っただけだ。

 人は自分と同じものは好きにはならない」

 だが、そこで少し考え、言い出した。

「顕人はなんでお前なんだろうな?」

 どっちも間が抜けている気がするが、と。

「どさくざ紛れにおにいさまを悪く言わないでください」

「悪くは言っていない。
 お前と一緒で間が抜けていて、なんだか憎めないという話だ」

 恋敵なのにな、と呟いていた。

 貴継は明日実の頭をぽんぽんと叩きながら言ってくる。

「いい加減、諦めろ、明日実。
 お前は俺が好きなんだ」

「そんな自信満々に言うような人は嫌いです」
と明日実は貴継を見ないまま言った。

「じゃあ、顕人みたいに勝手に鍵を開けて入って、寝てるお前をひっそり見つめてるような男がいいのか」

「……それ、貴方の妄想ですよね?」

「妄想だ」

 だが、やりかねん、と貴継は言う。

「第一、お前は顕人の指輪はしないが、俺のやった指輪はなんだかんだで外さないじゃないか」

「イ、イルカが可愛いからって言ったじゃないですか」
と言いながら、貴継の側からじりじりと座る場所をずらして逃げていく。

「……ほんとにお前は往生際が悪いな」

「だって、なんだかわからないうちに、ガンガン押してこられて、これで、コロッと貴方を好きになったりしたら、私、とんでもなく単純な女ってことじゃないですか?」

「いや、だから、とんでもなく単純な女なんだろ?」

 うっ。
 そこは否定して欲しかった、と思いながら、まだ逃げていたのだが、端まで来て、ヘッドボードにぶつかってしまう。

「明日実」
とヘッドボードの上の壁に手をつき、貴継は言ってくる。

「大丈夫だ。
 人様の家だから、ご無体な真似はしない」

 本当か? と窺うように貴継を見た。

「ただ……お前を抱き締めて眠っていたいだけだ」

 そう言いながら、口づけてくる。

 だんだん、なんで逆らってるのかわからなくなってきたような、と思いながら、明日実は貴継の口づけを受けていた。


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