ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノが膝を抱えています

本気で考えてみてくれ

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 結局、なんだったんだ、と思いながら、二人から解放された明日実が洗面所で顔を洗っていると、後ろに誰か立っていた。

 ひっ、と振り返ると、顕人だった。

「……明日実。
 急に、おかしなことを言い出してすまない」
と顕人は言ってきた。

 少しいつもの彼に戻った気がする。

「だが、本気で考えてみてくれ。
 お前が妹だと言っているのは俺の父親の妄想かもしれないし」

 いや……なんだかあの、顔も背格好も似ているのですが。

 それに、おじさまの妄想だとするなら、それはそれで悲しすぎるな、と思っていた。

 かと言って、母親に確認してみるだけの勇気もない。

 当たり前だが、触れてはいけないことのような気がするし。

 触れたら最後のような気もするし――。

 そのとき、後ろから顕人の首にネクタイを引っ掛け、引っ張ったものが居た。

「来いっ、顕人」

 ぐはっ、と首を押さえ、洗面所から引きずり出された顕人は貴継に腕をつかまれる。

 なにを思ったか、貴継は顕人とおのれの手首をさっきのネクタイで縛り、つなぎ始めた。

「ふふふ。
 これで俺が寝ても、明日実に悪さできまい」
と勝ち誇る。

「いやあの、おにいさまをそれで何処かにつないでおけばいいだけの話ではないのですか?」

 ベッドとか、と思わず言ってしまうと、

「明日実……」

「明日実、お前の方が情け容赦ないな……」
と男二人に言われてしまった。

 いや……そんなことも出来ますよと言ってみただけじゃないですか。

 いや、ほんとに……。



 結局、明日実は自分の部屋で寝て、貴継たちは、リビングのラグの上で寝ることになった。

「あの、貴継さんのベッドでお二人がおやすみになればいいと思うのですが」

 キングサイズだし、と提案してみたのだが、貴継は、
「嫌だ。
 あれはお前と寝るために買ったベッドだ。

 最初に一緒に寝るのがこいつとか勘弁だ」
と言い張るので、毛布等を運ぶのを手伝った。

「では、おやすみなさい」
と男二人で寝る部屋を後にする。

「おやすみ」
と貴継は言い、顕人は、なにか考えるように黙っていた。

 明日実は自分の部屋に戻ると、顕人からもらった指輪を棚に置き直す。

「……おやすみなさい、おにいさま」
と顕人ではなく、その指輪に向かって言った。

 蓋を開けて飾っているその指輪が月明かりに照らされている。

 これをいただいたとき、おにいさまに、婚約指輪などいただいて、結婚してくれとか言われたら、どんな心地だろうと思っていたけれど。

 ……困るな。

 うん。
 どうやら、私は困っているようだ、と思いながら、ベッドに入る。

 一体幾らするのかわからない指輪の石が月に光るのを眺め、それから、指にはまっている、微笑むイルカのリングを見た。

 そのなにも考えてなさそうな記号化された微笑みに、ちょっと笑ってしまう。

「……おやすみなさい、貴継さん」
とイルカに向かって言い、目を閉じた。

 
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