ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

文字の大きさ
62 / 73
ケダモノが膝を抱えています

こんな朝早くに、一体、誰が……?

しおりを挟む
 

 早朝、玄関のチャイムが鳴って、明日実たちは目を覚ました。

「は、はい?」
と明日実が出ようとすると、貴継が止める。

「待て。
 こんな朝早くに誰が来るんだ?」

 なにか気になるじゃないか、俺が出る、と言う。

「新聞屋さんかもしれません」

「なにしに」

「……新聞入れ間違えたから返してください、とか?」

 阿呆か、と言いながら、顕人と手がつながれたまま、貴継はインターフォンを確認に行った。

「知らない女だな」

 え? と明日実もそちらを見に行く。

「……この方、おにいさまの婚約者の方じゃないですか?」

 明日実のその言葉に、貴継に引きずられながらも、塞いでいるかのように俯きがちだった顕人が顔を上げた。

「お前、会ったことあるのか」
と問う貴継に、

「いえ、ショートカットなので、なんとなく……」
と答えると、そりゃ、お前の妄想の中での話だろ、という顔をする。

 顕人が二人の隙間からカメラの映像を確認した。

真冬まふゆ

「寒そうな名前だな」

「やはり、毛皮でもふもふの国の人なのでしょうか」

「後ろにピラミッドがあるんじゃなかったのか」

 この人も真冬に産まれたから真冬よ、とよくわからない主張を始めるのだろうか、とかしょうもないことを思っていたが、貴継が勝手に、
「今、鍵を開ける。
 入れ」
と顕人の意志も訊かずに言ってしまう。

「回収に来てくれたのなら、ちょうどよかったじゃないか」
とそれこそ、新聞かなにかのように言い、顕人とつながったまま、ドアに行く。

 顕人は嫌そうだったが、そのまま連れられていった。

 ドアを開けると、ショートカットで気の強そうな顔をした女が見えた。

 貴継を見て少し驚いた気がする。

「此処は従妹の明日実さんの部屋では?」

「俺は明日実の婚約者だ。
 よく此処がわかったな」

「鏡花さんに聞いたの」
と言った真冬はチラと貴継の後ろの顕人を見、

「婚約者も居るのに、こんなところまで来て、莫迦じゃないの?
 ……っていうか、それ、どんなプレイ?」
とネクタイでつながれた男二人の手を見る。

「まあいい入れ。
 お茶でも淹れよう。

 飲んだら、とっととこの男を連れて帰れ」

「いや、別にいらないけど……」
と視線をそらし気味に真冬は言っていたが、その薬指には、立派な指輪がはまっていた。



「鏡花さんに聞いたわ。
 明日実さんは貴方の妹だそうじゃないの」

 毛布を片付けたリビンクのソファに座るなり、真冬は言い出した。

 その前のラグに顕人は正座させられ、ぐずぐずとなにか言っている。

「……まだ確かめたわけじゃ」

「でも、その確率が高いから諦めようとしてたんでしょ」
と真冬は冷たく言い放つ。

 ひとつ溜息をつき、真冬は言った。

「私も貴方のことはそんなに好きじゃない。
 でも、貴方との結婚はこのまま進めてみようと思うの」

 顕人が惑いながらも、顔を上げる。

「やっぱり、破談にされたら困るわ。
 私の名前に傷がつくもの」

 ねえ、とお茶を運んできた明日実を見て真冬は言う。

 同じ女として、同意を求めてきたのだろうが、どうも頷きづらいな、と思っていた。

 おにいさまはしょげかえってらっしゃるし、と同情的に美人教師に叱られている男子高校生のような顕人を見る。

 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった

九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

ひとつの秩序

水瀬 葵
恋愛
ずっと好きだった職場の先輩が、恋人と同棲を始めた。 その日から、南莉子の日常は少しずつ噛み合わなくなっていく。 昔からの男友達・加瀬透真は、気づけばやたら距離が近くて、優しいのか、図々しいのか、よく分からない。 好きな人が二人いるわけじゃない。 ただ、先輩には彼女がいて、友達は友達の顔をしなくなっていく。 戻れると思っていた関係が、いつの間にか戻れなくなっている。 これは、仕事も恋もちゃんとやりたいのに、だいたい空回りしている大人たちの、少し不器用なラブコメディ。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

処理中です...