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ケダモノが膝を抱えています
どうして心配いらないんですか?
しおりを挟む「真冬さん」
と声をかけると、
「ごめんなさいね。
仕事中に」
と彼女は言ってきた。
「……顕人さんは?」
と視線をそらし、訊いてくるので、
「仕事に行ったと思います。
おにいさまも貴継さんと一緒で、どんなことがあっても仕事を休まれる方ではないので」
と答える。
ふと安田課長の姿が頭に浮かんだ。
虚ろな目で、電車で笑っていた。
この二人もああいう無茶しそうだな、と思う。
「わかっていたんだけどね。
あの人の心が私を向いていないのは」
でも、と顔を上げ、真冬はこちらを見て言った。
「貴女に関しては心配いらないわね。
小さなときから、顕人さんベッタリだったって聞いてたから心配してたんだけど」
「え、どうして心配いらないんですか?」
と問うと、
「だって、彼氏とラブラブじゃないのー」
と笑う。
彼氏……彼氏とは誰のことですか?
まさか、あのケダモノのことですか?
本人は婚約者だとか名乗ってますけど。
彼氏とか、そんな呼び名で呼ばれることはあまりないので、動揺してしまいますよ、とか思っていると、真冬が、
「顕人さんより素敵とは言わないけど」
と言い出したので、マジマジと彼女を見る。
「いい人そうじゃない、お幸せに。
私は私で頑張ってみるわ」
じゃあ、と真冬は去っていった。
その小さく細い背中を見ながら、明日実は思っていた。
大丈夫ですか?
この人の目は腐っていますよ。
ラブラブも間違っていますし、貴継さんが顕人おにいさまより素敵でないというのも間違っています。
「恋は盲目ってやつですね」
とお前がだろ、と美典たちに突っ込まれそうなことを呟いたとき、スマホが鳴った。
『あらー、明日実。
大丈夫?
顕人、なんだか思いつめてたようだけどー』
と鏡花が面白がるように言ってくる。
「ひどいですっ、鏡花さんっ」
なんでおにいさまを焚きつけたんですかっ、と文句を言うと、
『あら、私はそんなことで怯まず、玉砕してこいと言ったのよ』
その方が顕人のためでしょう? と笑っている。
も、物は言いようですね。
『こう着状態で何年もぐずぐず言ってるよりいいわよ。
まあ、またみんなで呑みに来なさい』
じゃあ、と言って切ってしまう。
うう。
鏡花さんも真冬さんも、どうして自分が言いたいだけ言って去っていってしまうのでしょうか。
私のこの胸に残るわだかまりはどうしたらいいんでしょう、と思いながら、とりあえず、コンビニに向かう。
ところで、鏡花さんの言う、みんなって、私と貴継さんとおにいさまのような気がするのですが。
そのメンツで来いと言うんですか。
殺人事件が起きます、と思いながら、明日実は俯きがちに、歩道を歩いていった。
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