ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノが膝を抱えています

明日のお楽しみですよ

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  イタイノ イタイノ

    トンデイケ



 そのあとの週末は静かに過ぎた。

 二人でお買い物に行ったり、カウンタックでドライブしたり、クレームブリュレを作ったり。

 日曜の夕方、ソファに寝て本を読んでいた貴継が訊いてきた。

「明日の入社式の準備は出来たか、明日実」

「はい。
 ばっちりです」

 貴継の前のテーブルで、貴継の作ってくれたクレームブリュレを食べながら言うと、

「そうか、ちょっと着てみろ」
と言って笑い、スーツを着させようとする。

「駄目です。
 当日のお楽しみです」

「そういうこと言うと、期待するぞ」
と言われ、

「……すみません。
 いつも着てるのとそう変わらないスーツです」
と俯いた。

「そうか。
 安心したぞ」
と貴継は本を置いて言う。

「ノースリーブだったり、もふもふだったり、とんでもないのを着てくるつもりかと思った」

「そんなわけないじゃないですかっ」

 そう言い、ソファで頬杖をついている貴継の腕を叩くと、貴継は笑ってこちらを見る。

 その表情が初めて会った頃とは全然違っていて、穏やかで、やさしげに見え、思わず、視線をそらしてしまった。

 どうしたらいいんでしょう。

 なんだか貴継さんの顔が見られません。

 息苦しいような。

 そんな感じもするけれど。

 ずっとこうして居たいような。

 貴継の居る休日に、もう違和感はない。

 そんなに長く一緒に居たわけでもないのに。

 これが相性というものなのでしょうか、と思っていると、貴継の手が明日実の頬に触れてきた。

 そのまま当たり前のようにキスしてくる。

 そして、自分も当たり前のようにそれを受けていた。

「明日実」
と貴継が明日実の背に手をやり、抱き寄せたとき、貴継のスマホが鳴った。

「なんだもう。
 どうもこういうとき、電話が入るな。

 誰か見てんじゃないのか。
 この部屋監視カメラとかあるんじゃないか?

 ……もしや、顕人か?」
と言いながら手を伸ばし、貴継はそれを取る。

 仕事の電話だったら困るからだろう。

「おにいさま、貴継さんの番号、ご存知ないでしょう?」
と言うと、

「いや、あの男は知ってそうだ」
と言いながら、着信を確認する。

「……親父じゃないか」

 えっ?
 お父様?

「キャンディさんが危篤だとか、遠くの水族館に送られるとか言うのでない限り怒るぞ」
と言いながらそれを取る。

 お父様がじゃなくて、キャンディさんがですか?
と苦笑いする。

 まあ、照れ隠しなんだろうな、と思っていると、

『貴継、今から来なさい』
と言う、調教しているときとは、全然違う声が漏れ聞こえてきた。

「なに命令して……」

『ちゃんとした格好をして来なさい。
 明日実さんは連れてこないで。

 ……お前をかばって右往左往しそうだから』

 貴継は黙り込む。

 なにか、嫌な感じかするなと思っていた。

「わ、私も隠れてついていきます」
と言ったが、スマホを切った貴継に、頭をぽんぽんと叩かれる。

「いいから。
 なにか食べて先に寝てろ。

 もしかしたら、長くなるかもしれないから」

 貴継は、一点を見て、なにか考えながら言ってくる。

 心配だったが、ついていくべきではないと思ったので、おとなしく家で待つことにした。

 貴継の父の声が耳から離れなかった。

 あの人、本当にボンクラだったのかな、とふと思う。

 貴継さんとそっくりな目をしたあの人が……。

 貴継は何時になっても帰っては来ず、言われた通り、布団に入ったものの、眠ることはできなかった。




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