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大聖女のあかし
大聖女のあかし
しおりを挟む「この水晶に遠くの景色が映ります」
おおっ、となにがはじまるのかと近づいてきていた店主や僧侶たちが驚く。
「映りますって……小さいな」
魔王がフェリシアの手にあるそれを見て言った。
持ち歩けるだけあって、ほんとうに手のひらに乗る程度だ。
「見えないかもしれませんが、声も聞こえますよ」
おおっ、とまたみんなが驚いた。
「……声も小さいのでは」
と獣人が言ったとき、水晶の中に、パッと景色が映った。
小さくて見えなくとも、なにかが映ったのはみんなにもわかったようだった。
「あっ、しまったっ」
とフェリシアは言う。
映っていたのは、玉座だった。
まだフェリシアの父がいたときにもらった水晶玉だったので、対になるものを父親に渡していたのだ。
玉座の近くにまだあるに違いない。
あまり使うことがなかったので、忘れていた。
疲れたような義父、ランベルトの姿が映っている。
まだ仕事をしていたようだ。
「大丈夫ですか?」
と思わず言うと、フェリシアの声が聞こえたらしく、ランベルトは、
「フェリシアさまっ!?」
とハッとしたように身を起こし、辺りを見回している。
「お義父さま、そこに水晶玉があるでしょう?
あれにこちらが映ると思います」
王はあちこち探し、水晶玉を見つけたようだった。
「おお、なんかすごい屋台が見えるぞ。
何処にいるのだ、フェリシア。
お前を探しているのだが」
「何処なのかは申せませんが。
実は、今、ちょっとなにか芸をしなくてはいけなくて。
お義父さま、そのまましゃべってください」
しゃべれと言われても、という顔をランベルトはした。
そして、ふと気づいたように言う。
「フェリシア、屋台の物を食べたら駄目だと言っただろう。
お腹を壊したらどうするんだ」
「意外に過保護だな」
と横で魔王が言う。
「ところで、お義父さま、何故、追い出した私を探しているのですか?」
「いや、探しているのは、アーローとサミュエルなのだが……。
そうだ。
お前が何処にいるのかわかったら、サミュエルはお前を追って出ていってしまうに違いないっ」
あいつがいなくなったら、国が回らんっ、とランベルトは慌てて水晶玉を隠そうとする。
「あ、大丈夫です。
もう切りますから。
それでは、さようなら」
「あ、そうだ、フェリシ……」
あ、切っちゃった、とフェリシアは水晶玉を見る。
「どうしましょう?
またすぐに繋げられるでしょうか」
水晶玉は周囲の空気から集めたエネルギーにより動いていると妖精から聞いていた。
すぐには動かないのでは、とフェリシアは思う。
「私が繋げてやってもよいが、どうせくだらないことだと思うぞ」
と魔王に言われた。
実際、くだらないことだった。
ウィリカが聖女になりたがって困っている。
博識なお前なら、なにかいい方法を知っているのではないか、という話だった――。
その頃、アーロー一行はハート型のピンクの湖にたどり着いていた。
大聖女さまが奇跡を起こしたというので、村人たちは盛り上がっているようだった。
村人たちは湖のほとりに、たくさんの灯りと料理と酒を持ち寄っており。
まるで祭りのようになっていた。
アーローたちにも酒を振る舞ってくれる。
アーローは酒の入った木の器を手にしたまま、生真面目にフェリシアの情報を集めようとしていた。
「この奇跡は、伝説の勇者の剣を持つ大聖女一行が起こしたのか。
伝説の勇者の剣。
まさか……フェリシア様?
あの、その大聖女さまはどちらに」
「大聖女さまは風のように去っていかれた」
「大聖女さまは魔法のように消えてしまわれた」
「何故なら、大聖女さまだから」
と村人たちは笑顔で答える。
もちろん、フェリシアは普通に歩いて去っていったのだが、みんなはイメージの中の偉大なる大聖女さまを語っていた。
なにか訊き出そうにも、一向に埒が明かず、アーローはフェリシアの行き先に関する手がかりをそこで失ってしまった。
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