まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ

文字の大きさ
38 / 69
苔玉の町

何処にも入れぬではないか

しおりを挟む

 フェリシアは気づいた。

 水をたっぷり含んだ苔玉の家。
 その玄関扉の両端に、この場所に似つかわしくない枯れ枝がぶら下がっていることに。

「これは……?」

 その細い枝を見上げてフェリシアが訊くと、中に入っていた老婆が戻ってきて答えてくれた。

「ああ、それはこの町に昔から伝わる縁起物なんですよ、大聖女様」

 特に名乗ってもいないのに、老婆にも大聖女扱いされる。

「この辺りの家は、みんなぶら下げています。
 この町のものはなんでも、水を含んでいるので、なにを置いてもすぐ湿気てくるのですが。

 この枝だけは何故か枯れたままです。
 珍しいこともあり、各家が玄関に飾っていますよ」

 そう老婆は微笑むと、みんなすぐに入ってくると思ってか、そのまま奥に行ってしまった。

「魔王さまが入れないとは……」
とファルコが言い、

「この縁起物、魔除けなんですかね?」
とフェリシアが呟く。

 そんな三人の目の前をスライムの男の子は普通にとことこ入っていった。

 ……彼は魔ではないのだろうか。

 まあ、彼が正体をあらわしたところで。
 なんか、ぬめっとして、ぽよっとして、移動してってるだけだからな。

 そうフェリシアが思ったとき、魔王が町を振り返りながら言った。

「この魔除け、何処の家にもあるのか」

 そういえば、どの家にもこの枯れ枝がぶら下がっているように見える。

「……では、何処にも入れないではないか」
と魔王は呟く。

「と、ともかく、不審がられていけないので、とりあえず、私、中に入りますね」

 なにかお手伝いしましょうか? と声をかけながらフェリシアが入っていくと、

「ありがとうございます、大聖女様。
 大聖女様にこのようなことを頼んでは申し訳ないのですが。

 勝手口を出たところに、ハーブが干してありますので。
 お持ちいただければ、美味しいハーブティーが入れられますが。

 息子が高いところの方が風が通るからと、カゴに入れて吊るしてくれたんですけど、手が届かなくて」
と老婆はキッチンから振り返り、微笑む。

 わかりました、とフェリシアは勝手口の扉を開けてみた。
 軒下の高いところに、ずらりとカゴが吊るしてある。

 女性にしては大きいフェリシアだが、背伸びしないと届かない感じだ。
 これはおばあさんは届かないな、と思う。

 なにもかも湿気てしまうから、できるだけ、風の通るところに置いているのか。

 ――砂漠にいると、水が貴重だけど。
 こういうところだと、今度は、乾いた風が欲しくなるものなのね。

 それにしても、魔王様はどうしたらいいんだろうなあ。

 ファルコは入れるのかな?

 まあ、魔王様ほど、強大なチカラはないから、と思ったとき、軒下に吊るしてあるハーブの入ったカゴのひとつを誰かがとってくれた。

「あ、ありがとうございます」
と背伸びしていたフェリシアが振り向くと、魔王が立っていた。

 裏に回ってきたらしい。

「これひとつでいいか?」
と中の老婆に訊きながら、魔王は、ひょいと勝手口をまたいだ。

「……入れたな」
「入れましたね」

「魔除けのない裏からは入れるのか。
 意味ないじゃないか」
と魔王自ら言っていた。

 まあ確かに。

 今、この世界で、もっとも『魔』な魔王が除けられないのなら、魔除けの意味はないかもな、とフェリシアも思う。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

出来損ないと虐げられた公爵令嬢、前世の記憶で古代魔法を再現し最強になる~私を捨てた国が助けを求めてきても、もう隣で守ってくれる人がいますので

夏見ナイ
ファンタジー
ヴァインベルク公爵家のエリアーナは、魔力ゼロの『出来損ない』として家族に虐げられる日々を送っていた。16歳の誕生日、兄に突き落とされた衝撃で、彼女は前世の記憶――物理学を学ぶ日本の女子大生だったことを思い出す。 「この世界の魔法は、物理法則で再現できる!」 前世の知識を武器に、虐げられた運命を覆すことを決意したエリアーナ。そんな彼女の類稀なる才能に唯一気づいたのは、『氷の悪魔』と畏れられる冷徹な辺境伯カイドだった。 彼に守られ、その頭脳で自身を蔑んだ者たちを見返していく痛快逆転ストーリー!

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

獅子王の運命の番は、捨てられた猫獣人の私でした

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:女性HOT3位!】 狼獣人のエリート騎士団長ガロウと番になり、幸せの絶頂だった猫獣人のミミ。しかしある日、ガロウは「真の番が見つかった」と美しい貴族令嬢を連れ帰り、「地味なお前はもう用済みだ」とミミを一方的に追い出してしまう。 家族にも見放され、王都の片隅の食堂で働くミミの前に現れたのは、お忍びで街を訪れていた最強の獣人王・レオンハルトだった。 彼は一目でミミが、数百年ぶりの『運命の番』であることを見抜く。心の傷を負ったミミを、王は包み込むように、そして激しく溺愛していく――。 「もう誰にもお前を傷つけさせない」 一方、ミミを捨てた元夫は後悔の日々を送っていた。そんな彼の元に、次期王妃の披露パーティーの招待状が届く。そこで彼が目にしたのは、獅子王の隣で誰よりも美しく輝く、ミミの姿だった――。 これは、不遇な少女が本当の愛を見つけ、最高に幸せになるまでの逆転溺愛ストーリー。 ※気を抜くと読点だらけになることがあるので、読みづらさを感じたら教えてくれるとうれしいです。 祝:女性HOT69位!(2025年8月25日4時05分) →27位へ!(8/25 19:21)→11位へ!(8/26 22:38)→6位へ!(8月27日 20:01)→3位へ!(8月28日 2:35)

処理中です...