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苔玉の町
危険な預かり物
しおりを挟む「ところで、さっきから気になっていたのですが、皆さんが腰に下げたりしている、その鈴は苔の町の参拝の鈴では?」
とサミュエルが言ってきた。
「そうなの。
これを持ってると、旅の間、いろいろと施しを受けられるとか言うので、いただいたの」
サミュエルが小首を傾げて言う。
「でもそれ、施される代わりに、次の祭りまでに神殿に鈴を返さないと、鞭打ちの刑になりますよ」
ええっ? とフェリシアとファルコが声を上げた。
「祭りっていつ!?」
えーと、と空に浮かぶ白い月の形を見ながら、サミュエルは、
「三日後ですかね?」
と言う。
「すぐ返さないとっ」
「あのー、今、飛び越えていきました、フェリシア様」
とファルコが下を見ながら言ってくる。
「戻ってっ、ドラゴンッ。
戻ってっ」
だが、鼻歌混じりに飛んでいるドラゴンは人の話など聞いていない。
「あの老婆、そんな恐ろしいものを渡してくるとは……。
人の良さそうな笑顔は作り物だったのでしょうか」
と言うファルコに、
「いや、あの距離から、まさか行かないなんてことがあるとは思わなかったんでしょうね」
とフェリシアは言った。
苔の町の神殿はもうすぐそこに見えていたのに――。
サミュエルが、
「そうですね~。
それに、万が一行かなくても、大聖女様なら、なんとかできると思われたのでは?」
と言う。
なんとかできるはずもない。
フェリシアは振り向き訊いた。
「どうしましょう、魔王様。
……魔王様?」
魔王は鞭打ちの刑に処されるという話に打ち震えていた。
「私は、鞭打たれたことなどないのだが……」
「……魔王様ですからね」
みんなに大事にされてきた魔王様。
なんかすごい柔肌そうだ、とフェリシアは思う。
「ドラゴン、苔の町に戻ってくれない?
ねえ」
フェリシアがそう呼びかけると、ドラゴンがいきなり旋回した。
ホッとしかけたのも束の間、苔の町を軽く通り過ぎてしまう。
「あ~っ!」
と全員下を向いて叫んだ。
そのまま一昼夜、羽ばたきつづけたドラゴンは透明感あるカルデラ湖の縁に降り立ち、ごくごく水を飲み始めた。
「……喉が渇いてたのか」
「渇いてるのなら、もっと近くで飲めばいいのに」
「ここの水が好きなんじゃないですかね?」
魔王、フェリシア、ファルコが呆然としたまま呟く。
「所詮はケダモノ。
話が通じないようですね」
とサミュエルは言ったが、ファルコは言うことを聞かないドラゴンを見ながら、
「我らもケダモノなんですけどね……」
と言ったあと、困ったように、う~んと唸る。
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