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苔玉の町
魔王の印
しおりを挟む「何故、魔王様のドラゴンだとわかるのですか?」
フェリシアは男にそう問うてみた。
男はドラゴンの尻尾を指差し、
「今、尻尾が跳ねたとき、下側に魔王の印がありました。
うちの実家の近くにある魔王の寝所にあったのと同じものです」
と言う。
「実家の近くに魔王様の寝所があるなんて大変ね……」
「まあ、魔王の寝所と噂に聞くだけで、魔王を見たことはないのですが。
それにしても、ドラゴンって大きくて恐ろしいですね」
フェリシアには気持ち良さげに眠っているように見えるドラゴンを配達人の男は怯えたように見ている。
「こんなものが近くに来たら、恐怖のあまり、寝ていられませんね」
このドラゴン、魔王様の寝所のひとつに閉じ込められていたそうなので、あなたの実家の近くにいたかもしれませんよ、とフェリシアは思っていたが、黙っていた。
「お役に立てなくてすみませんでした。
それでは失礼致しますっ」
配達人の男は汲んだ水を手に馬に跨ると、山を駆け下りて行ってしまった。
「魔王の印があるそうですよ、このドラゴン」
フェリシアはそう言ったが、魔王は首を傾げている。
「そもそも、魔王の印とはどんなのだ?」
「……あなたはほんとうに魔王なのですか?」
そう思わず、言ってしまってしまい、サミュエルに、
「フェリシア様はそのうち、魔族に無礼討ちにされませんか?」
と言われてしまう。
「……いや、なんでファルコじゃなく、あなたが魔族サイドに立って物を言うの?」
そのとき、スライムの男の子が持っている水晶玉が光った。
「お義父様かしら。
何処にいても連絡がつくなんて不便なものね」
そうフェリシアは呟いて、ファルコに、
逆じゃないですか?
という顔をされる。
だがまあ、孫のように可愛がっているスライムの男の子のことが気になっているのかもしれないと思い、
「出てみて」
とスライムに言った。
だが、飛び出してきた声はウィリカのものだった。
「お義姉様っ」
「ごめん、今すぐ切って」
とフェリシアはスライムに言う。
「お義姉様っ、聖なるチカラをはかる水晶玉を弁償してくださいっ。
それが嫌なら、お付きの殿方をひとりここに寄越してくださいっ」
いや、何故っ!?
「それが駄目なら、サミュエルを返してくださいっ」
「……サミュエル、あなたの要求が一番下なんだけど」
「絶対に帰らないとお伝えください」
とサミュエルは言う。
だが、サミュエルはふと思いついたように、水晶玉の前に進み出て言った。
「ウィリカ様」
「サミュエル、今すぐ帰ってきなさいっ」
「駄目です。
私は魔王に囚われてしまいました」
「何処に魔王がいるのよっ」
「今、とある場所で魔王に捕まってまして」
「とある場所でって。
魔王はそんな、そこここに、ひょいひょいいるものなの?」
困るわ、とウィリカは言う。
「お義姉様がさっさと魔王を倒して帰ってきてしまうじゃないの」
「フェリシア様も捕まっておいでです」
また、適当なことを、という顔で魔王は見ている。
「あの美しい殿方二人も?」
「そうです。
あのドラゴン、魔王の使いだったようで。
我々は魔王の旅の供とされているのです。
なので帰れません」
そうなのっ? と言ったウィリカは楽しそうに笑い出す。
「……なんで今笑った?
お前の妹はやはり何処かおかしいのか?」
と魔王が眉をひそめたとき、ウィリカが言った。
「じゃあ、お義姉様は、魔王の慰み者になったのねっ」
なにっ? と魔王が驚く。
「お前を連れて歩くときには、お前を慰み者にしなければならなかったのか!」
「……いえ。
してくださらなくて、結構ですよ」
「ともかく、そんなわけで、我々は戻れませんから。
あっ、手が滑りましたっ」
サミュエルは水晶玉をわざと湖に落とした。
スライムの男の子が、あーという顔をする。
「すみません。
今度、拾いますから」
振り返り言うサミュエルに、
「いいわ。
しばらくはこのままで」
とフェリシアは苦笑いして言った。
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