後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ

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封印されし宮殿

あなたは何者なのですか……?

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「どうです?
 気の合いそうなお妃様はいらっしゃいましたか?」

 洋蘭が後宮に入れば、一番の寵姫になりそうだと思っているらしい李常の腰は低い。

 一介の下女なのにな、と思う洋蘭に李常が言う。

「いろんな方がいらっしゃいますので、一人くらいはお話の合いそうな方がいらっしゃったのでは?」

「……いろんな方、いらっしゃいましたかね?」

 華やかで美しく、一見、やさしそうだが、気の強い桜妃。

 理知的な瞳が美しいが、気の強い陶妃。

 慎み深い笑顔だが、気の強い緑妃。

「気の強い方しかいらっしゃらなかったような」

 陛下も大変ですね、と思わず言ってしまったが、苑楊は顎を撫でながら呟く。

「いやまあ、私は後宮の妃たちとは関わらないから」

 いや、なんのための後宮なんですか、と思ったが。

「私はあの者たちに手をつけてはおらぬ。
 いずれ、彼女らの後見人も気に入るような有力な臣下などに下賜しようと思って」
と苑楊は言い出す。

「それで、それぞれの部族の方々が納得なさいますか?」

「後宮は恐ろしいところだぞ。
 子を産んでも、親子ともども命を狙われる」

 私も何度死にかけたことか、と苑楊はしみじみ語っていた。

「自らの出世の助けになるうえに、命の保証のある場所に送ってやろうというのだ。
 いいではないか」

「待ってください。
 そんな命の保証のない場所に私にとどまれというのですか」
と洋蘭は言ったが。

「私もさすがに一人では寂しい。
 だが、お前がいてくれたら、百人力というか。

 お前、一人いるだけで、騒がしそうというか。

 退屈しなさそうというか」

 段々、うれしくなくなってきたな、と洋蘭は思う。

「しかし、お妃さまがたが、ただのお飾りの妃になっていらしたとは。

 それでは、お世継ぎがお生まれにならないわけですね」

 皇帝ともあろうお方がなにをやっておられるのですか、と呆れながら洋蘭は言ったが、苑楊は、

「心配ない。
 世継ぎなら、お前が産めばよい」
と言う。

「……皇后様は?
 さすがに皇后様を下賜はなさらないでしょう?」

「あれは私を寄せ付けぬから……」

 あれの親も有力すぎて、怖い、と苑楊は怯えている。

「皇帝とは寂しい商売ですね」
とつい、本音をもらして、これっ、という顔で李常に見られてしまった。



 洋蘭が宮殿に戻ると、師匠は相変わらず、窓際でまったり本を読んでいた。

 苑楊には、姿が見えなかったが、霊ではないのかっ? と言われていた師匠だったが。

 普通に顔を上げ、

「洋蘭よ。
 後宮はどうであった?」
と訊いてくる。

「はあ、面白い場所でしたね」
と言うと、うむうむ、と頷き、師匠は言った。

「私も幼き折は、後宮で暮らしておったので、なんとなくあの中のことはわかるが」

「待ってください、師匠。
 後宮で暮らしてたって。

 あなた、一体、何者なんですか……?」
と得体の知れない師匠に向かい、洋蘭は訊いたが、師匠は、ほほほほ、と笑っているだけだった。


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