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封印されし宮殿
怪しい贈り物
しおりを挟む「洋蘭よ。
ちょっと本をとってきてくれないか」
師匠にそう命じられ、洋蘭はその日、後宮へと向かっていた。
なんでも、師匠は牢に押し込められるとき、ここに閉じこもる条件として、
「宮廷内のどんな本も自分が見たいと言ったら、差し出さねばならない」
という約束をとりつけていたらしい。
……どんな尊大な囚人だ。
そう思いながら、洋蘭は後宮に昔からいるおばあさん、とやらの元に本を取りに行った。
華やかな後宮にこんな場所があるのか、と思うような普通の家。
その民家の前には川が流れ、畑もあった。
中から出てきた師匠とそう年も変わらないように見える老婆が言う。
「あんたが洋蘭かい。
これだよ。
持っていきな」
なんでこんな場所にこんな立派な書物が、と思いながらも、洋蘭はその本を受け取ると、傷まないよう、布で包んだ。
洋蘭は老婆に礼を言って去り、歩いて戻る。
やれやれ。
思ったより遠かったな。
後宮の部分だけで、巨大なひとつの都みたいなもんだもんな、と思いながら、花々の咲き乱れる道まで戻ってきたとき、今日は輿に乗っていない桜妃とその侍女たちと出くわした。
頭を下げ、行こうとすると、侍女に豪奢な傘を差しかけられて立つ桜妃が洋蘭を呼び止める。
「お前、見ない顔ね。
何処の侍女?」
そうか。
この間は宦官の服を着ていたし。
狭い通路に隠れていたから、向こうからは見えてなかったんだよな、と気づく。
「桜妃様。
私は封じられし宮殿にて、囚人の世話をしているものです」
「囚人の世話をする下女なの?
それにしては良い衣を着ているじゃないの」
「はい。
その方は、思想に問題があり、囚人となられておりますが。
出自正しい学者様なので、世話をしております私もご無礼のない格好をしております」
洋蘭はそんな適当なことを言う。
ふうん、と言った桜妃は、
「あなた、あの宮殿の方に戻るの?」
と洋蘭に訊いてきた。
「だったら、途中にある緑妃の宮殿に寄って、これを届けてくださらない?
私の侍女たちは今、とても忙しいの」
そう言い、菓子が入っているらしい蓋付きの器を侍女から洋蘭に渡させる。
いやいや。
あなたがた、そこで花を眺めながら、しゃべってるだけではないですか。
何故、緑妃様への贈り物を自分の侍女に届けさせないのですか。
それだけで、すでに胡散臭いんですけど、と洋蘭は思っていたが。
ここで断ると、この菓子の行方がわからなくなるし。
そもそも、囚人の侍女ごときがお妃様からの依頼を断るなんて、できるわけもない。
「わかりました」
と洋蘭は仕方なくそれを受け取り、歩き出す。
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