後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ

文字の大きさ
21 / 69
封印されし宮殿

牢のヒミツ

しおりを挟む
 

「なに、抜け穴があるからじゃよ」

 洋蘭の問いに、師匠は軽くそう言う。

「この牢にですか?
 なんのための牢なんですか? ここ」
と洋蘭が眉をひそめると、

「いや、違う。
 そうではない」
と言いながら、師匠は積み上げられた本の向こうから出てきた。

 いつも本に埋もれているので、衣服や髪に匂いが染みついているのか。

 師匠が動くたび、古い本の匂いがする。

「さっきの禁断の寝所。
 あの歴代の皇帝が使う寝所には、緊急時の抜け穴がある。

 それがこの牢に繋がっておるのだよ」

「なるほど。
 牢なのに抜け道があるのではなく、寝所の抜け道がここにつながっているわけなのですね」

 そう言いながら、おや? と洋蘭は思った。

「じゃあ、ここはもしかして、もともとは牢として機能していなかったのでは?」

 ここが本当に牢屋なら、皇帝が寝所を抜け出てきたところで、囚人と鉢合わせしてしまう。

「ここは本当は牢ではないのですか?」

「そうじゃ。
 ここはもともと、牢の形をした抜け道で。

 囚人なんて、入ってはおらなんだ。

 だが、それでは怪しまれると思ってか、ここには害のない囚人を収容するようになったのだ」

「……なんですか、害のない囚人って」

 フォフォフォフォフォ、と師匠は笑い、

「私など本を読んでいるときに、誰が来ようと気にならん。
 皇帝とその取り巻きがゾロゾロ抜け穴から出てきても気がつかんじゃろうな。

 本を叩き落とされれば別だが」
と言う。

「お師匠様は、まるで、本の世界に生きておられるようですね」

「いや、現実も楽しいぞ。
 特に宮殿で起こることは、そんじょそこらの本の内容を飛び越えておる」

 まあ、そうでしょうね……と思いながら、洋蘭は牢という名の秘密の抜け道を見回して言う。

「でも、あれですね。
 ここまで皇帝陛下が逃げてこられても、ここで行き止まりになりますよね?」

 どのみち、この牢には格子がはまり、鍵がかかっているからだ。

「だから、この牢には別の逃げ道も作られておる」

「……ほんとうにこの牢が牢である意味はなんなのですか?」

 何処からでも逃げ放題じゃないですか、と洋蘭は言った。

 そのとき、師匠が、うん? という顔をして、洋蘭の後ろを見た。

「洋蘭よ。
 誰かがこの宮殿に忍び込もうとしているようだぞ」

 洋蘭は振り返りながら、
「李常様とかですかね?」
と苑楊とともに、もっとも足繁くここに通っている者の名を挙げたが。

「いや、足音が軽いな。
 李常はいい生活をしすぎている感じの重い足音だが。

 この侵入者は体重が軽く、身も軽い。

 いつも誰かになにかを命じられているので、さっと動ける小娘の足音だ」

「お師匠様。
 本を読んでないときは鋭いですね」

「今はまったり暮らしておるが。
 その昔は命を狙われておったので、本に意識が向いていないときは鋭いぞ。

 ちなみに、洋蘭。
 そなたは、今、やって来た娘ほど、身のこなしが軽くない。

 鈍重だ」
と言われてしまう。

「えーっ?
 結構、ちゃかちゃか動いてると思うんですけどね~」
と洋蘭は文句を言いながら、

「まあいいや。
 覗いてきます」
と師匠の許を離れ、侵入者を覗きに行った。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

【完結】偽りの華は後宮に咲く〜義賊の娘は冷徹義兄と食えない暗愚皇帝に振り回される〜

降魔 鬼灯
キャラ文芸
 義賊である養父を助けるため大貴族の屋敷に忍び込んだ燕燕は若き当主王蒼月に捕まる。  危うく殺されかけた燕燕だが、その顔が逃げた妹、王珠蘭に似ていることに気付いた蒼月により取引を持ちかけられる。  逃げた妹の代わりに顔だけは綺麗な暗君である皇帝の妃を決める選秀女試験に出て不合格になれば父の解放を約束するという密約を交わした。    記憶力抜群、運動神経抜群、音楽的才能壊滅の主人公が父のために無難な成績での選秀女試験不合格を勝ち取れるのか。  実は食えない性格の皇帝と冷徹だがマメな義兄蒼月に振り回され溺愛される燕燕は無事2人から解放されるのか。  後宮コメディストーリー  完結済  

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

処理中です...