お好み焼き屋さんのおとなりさん

菱沼あゆ

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イケメンさんと相席になりました

これって、運命なんでしょうか

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「晩ご飯、さっきもう食べたんですけどね。
 お昼少なかったので、早めに。

 それで、ケチャップなくなっちゃって」

 今、昼が少なかったのでって言ったか?
と高秀は驚愕しているようだった。

 いやいや。
 キャベツいっぱいのお好み焼きとか、焼きそばとか。

 意外と消化がいいではないですか、と砂月は心の中で言い訳をする。

「ケチャップの在庫がなくなると不安になるので、新しいケチャップ開けたら、すぐ買いに行くんですよ」

「ケチャップがなくなると不安に、じゃなくて、新品のケチャップの在庫がなくなると不安になるのか」

 重症だな、と医者に言われる。

「今日はオムライスとフルーツサラダだったんで」

 オムライスでケチャップいっぱい使って、と言おうとしたとき、高秀が言った。

「いいもの食べてるな」

「……ニートなのに、すみません」
とつい、謝ってしまった。

 働いていたときの生活がハードすぎて体調を崩してしまったこともあり。

 今は、美味しいものを食べたり、公園を散歩したりして、呑気に過ごしている。

 でも、忙しく働いているお医者様の前で、こんな話申し訳ないな、と思ってしまった。

 まあ、呑気に過ごしているとは言っても、職がない不安から、気持ちは晴れやかではないのだが――。

「いや、なにも責めてない。
 ただ、美味そうだな、と思っただけだ」

 高秀はあまり料理はしないのか、レトルトや缶詰を主に見ていた。

「あ、そうだ。
 もし、よろしかったら、今度、ご馳走しましょうか? オムライス」

「えっ?」

「私なんぞの作ったものでよろしければ。
 ――あっ、これも入れればよかったっ」

 砂月は缶詰の棚にあるみかんの缶詰を見て、残念がる。

「フルーツサラダ、家にある果物とかで適当に作ったんですけど。
 なにか足りないなと……

 そうですよ。
 みかんですよ、みかんっ」
と言いながら、カゴに入れていると、

「また作るのか? フルーツサラダ」
と高秀が訊いてくる。

「いえ、今から食べようかと。
 入れそびれたので」

「今から食べて意味はあるのか」

「大丈夫です。
 帰って、すぐ食べるんで」

 高秀はまだ、? という顔をしていた。

「お腹の中でフルーツサラダになりますよ」
「食べたの、いつだ」

「20分前ですかね?」

 お医者様、細かいな、と思ったとき、砂月は気づいた。

「あ、しまったっ。
 紅茶もさっきアイスティーにしたとき、あと、半分しかなかったんだっ」

「……紅茶も切れたら死ぬのか」
と後ろで高秀が呟くのが聞こえてきたとき、

「あら、高秀さん」
と声がした。

 振り返ると、細すぎるくらい細い、シュッとした美女が立っていた。

 身につけているスーツも高そうだ。

 ゆったりとウェーブのかかった髪はきちんと手入れされている。

「……彼女?」
とその女性はこちらを見て言う。

「いや……」

「二人で食材買って、部屋で夕食でも作るの?」

「いや――」

 そう、と言って、ふいと行ってしまう。

 機嫌が悪くなったようだ。

 この方、もしや、海崎さんに気があるとか?

 でも、二人で作るって。
 海崎さん、レトルトと缶詰しか買ってませんよ。

 なんにもしそうにないんですけど。

 あと、二人で買い物して夕食を作るのに、それぞれがカゴ持って買い物してるのおかしいと思うんですが。

「あの方、推理力が足りませんね。
 探偵にはなれなさそうですよ」

「……医者だよ、近くの総合病院の」

 大学で同期だった、と高秀がスーパーから指差した方角には、リアル白い巨塔が見られそうな、ドデカい病院がある。

「あ~、セレブな患者が多いって言う。
 政治家が逃亡するのに使ったりしてますよね。

 綺麗な方ですねえ。
 あれでお医者様なんですよね。

 ああいう人に男の方はイチコロなんでしょうかね」

「そうか?」

「女医さんなんですよね?
 なんかリアルに胃袋つかんで来そうじゃないですか」

「いや、嫌だろ。
 リアルに胃袋つかんで来る女……。

 そういえば、お前、なんでも持ってるが、医師の資格はないのか」

「それはさすがにないですね。
 あ、そういえば、スーパーの検定試験ってあるじゃないですか。

 あれ、ちょっといいですよね」

「いろんな資格があるもんだな」

 などと会話をしながら、買い物を終えた。
 


 まだ別の買い物があったので、高秀とはスーパーの前で別れた。

 家に帰った砂月は、色彩的に物足らなくなっていたキッチンの引き出しに、ぎゅう、とケチャップを押し込む。

 これでよし、と思った。

 この引き出しには、ケチャップと、インスタントの味噌汁と、パスタ。

 パスタソース、ツナ缶、ゆかりがあって色合い的に完成する気がする。

 赤、茶、赤と黄色、青、銀色、紫だ。

 よしよし、と満足したところで気がついた。

 そういえば、面接してくれるとか言ってたのに、まだ履歴書も渡してないな、と。

 病院にでも行ってみるかな。

 でも、なんて名前だか訊かなかったんだよな~、海崎さんの病院。

 一人でやってるって言ってたから。
 海崎小児科とかで検索したら、わかるかな?

 ……名前と全然関係ない病院名だったら、困るな。

 ニコニコこどもクリニックとかって名前だったら、発見不可能だが、どうしよう。

 そんなことを思いながら、みかんの缶詰を開け、お腹の中でフルーツサラダにする。
 


「出会えましたね、運命でしょうか」

 お好み焼き屋で再び出会った砂月に、高秀はそう言われた。

 運命と言われて、どきりとしていた。

 また偶然、出会うなんて、と自分も思っていたからだ。

 すでに席に着いていた砂月だが、すっと鞄から封筒を出してくる。

「履歴書です。
 よろしくお願いいたしますっ」

 立ち上がり、頭を下げられた。

「そっちの運命か……」

「え?」

 就職的運命だったようだ。

「相席いいか」
と他の席が空いているにも関わらず、訊いてみた。

「はいっ。
 よろしくお願いいたしますっ」
とすでに座っていた砂月は両手を膝に置き、頭を下げてくる。

 最早、ここで面接な感じだな、と思う。

「個人病院なんで、雑用も多いと思うが」
「頑張りますっ」

「そうか。
 まあ、じゃあ、採用で」

「ありがとうございますっ。
 ほんとすみませんっ。

 あっ、お礼にお好み焼きおごりますよっ」

「……いや、雇い主におごるな」
と高秀は言った。

 


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