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むしろ、運命だろう
意地になっているだけなのだろうか
しおりを挟む窓から砂月の顔とビールだけが見える。
砂月はこちらを眺めながら、しみじみと言った。
「いやあ、お好み焼き屋のお隣に住んでらしたんですね。
何度もたまたま会うなんて、運命なのかなとかちょっと思ってたんですけど。
たまたまじゃなかったんですね」
「待て。
どちらかと言えば、こうして、隣に住んでたこと自体が運命じゃないのか?」
なんだ運命じゃないではないですかと言われてしまったので、意地になっているだけなのだろうか。
何故か、この出会いを運命的なことにしたくなり。
高秀はそう言い返す。
……っていうか。
この口ぶりからすると、こいつは、さっきまで俺たちの出会いを運命的だと感じていたということかっ?
開けなければよかったのか、このカーテンッ!
激しく後悔した高秀は、つい、カーテンを閉めてしまい、
「あっ、顔合わせるのがお嫌なら、こちらが閉めますよ~」
と言われてしまう。
「い、いや、単に、せっかく一人で呑んでたのに悪かったなと思って」
とカーテンを開けながら、言い訳すると、砂月は笑って言ってきた。
「いえいえ。
こちらこそ、申し訳ないです。
実は、お宅のベランダのライトアップされた木々を拝見しながら呑んじゃってまして」
「好きなだけ見ろ。
というか、運命より気になることがあるんだが」
リバーは何処に……? と訊いてしまう。
砂月は、すぐに、なんのことだかわかったようで。
あはは、と笑い、ビールの缶を何処かに置くと、
「ちょっと降りてこられます?」
と立ち上がりながら、訊いてきた。
「あ、どうもー」
高秀が下に降りていくと、砂月はもう待っていた。
部屋の前の階段から、とととっと降りてきただけなので、早かったらしい。
はい、とビールの缶を渡される。
「ああ……ありがとう」
店の横。
アパートの階段の前で、何故か一杯やりながら、砂月の説明を受ける。
「実はちゃんとここに書いてあるんですよ」
砂月が指差した階段の側。
三つある郵便受けの上にある白く細長い看板。
『お好み 飛翔』
の下に小さく、黒いマジックの文字があった。
『~リバーサイドヒルズガーデン~』
小説のサブタイトルみたいに書いてあるっ。
「お好み焼き屋のおばさんが、この名前をアパートにつけたかったけど。
ちょっと恥ずかしかったので、小さく書いたそうです」
でも、ちゃんと名前の根拠はあるんですよ、と砂月は言う。
砂月は足元を指差した。
「ここにリバーがあります」
――暗渠!?
そういえば、細い道が階段横を通って裏まで続いている。
この下が塞がれた川なのだろう。
「あと、こちらにヒルズが」
と砂月はお好み焼き屋の正面にある小さな公園を指さした。
街頭の灯りの下、砂場の山が見える。
「まさか、あれか?」
「いや、あれは子どもが昼間作ったやつでは……。
あの先に看板があるじゃないですか。
あそこが全国にたくさんある、日本で一番低い山のひとつです」
と砂月は砂場の向こう、木々の下にある看板を手で示す。
そう言われれば、あの辺りだけ、ちょっと他の場所より、土地が高いような気もする……。
「で、これがガーデンです」
と砂月は店の前、木製の棚に並べてある多肉植物たちを指差した。
「お好み焼き屋のおばさんのガーデンです」
「なるほど……」
可愛らしいそのガーデンを眺めながら、二人でちょっと呑む。
二人とも越してきたばかりなので、近くの美味しいコロッケの店などの情報を交換し合った。
「お前はなんで、ここに住もうと思ったんだ?
このアパートの名前につられて住んだとか?」
「名前は知らなかったです。
このお好み焼き屋の二階に部屋があると聞いたので。
いいなあ、と思って」
「俺もこのお好み焼き屋の横だから、いいなと思ってこのマンションにしたんだ」
「気が合いますね」
と砂月が笑う。
そのへらっと気の抜けたような笑顔を見ながら、やはり、なにかがこう……運命なのかもしれない、と思った。
砂月が向かい合う、近すぎるお互いの部屋の窓を見上げる。
缶ビールを呑みながら言った。
「こんなに部屋が近いと、なにかが飛んできそうですね」
「なにかってなんだ」
「……Wi-Fi?」
と言いながら、砂月は斜めがけにしていた散歩用らしきスマホケースの後ろポケットからツマミのチータ◯を出してきた。
初出勤日。
砂月は高秀に、
「一緒に行くか?」
と誘われていたのだが。
最初なので、下っ端は早くに行くべきだ、と思い、断っていた。
ところが、自分としては早く出たはずなのに、すぐに高秀も道に出てくるのが見えた。
振り返り、砂月は叫ぶ。
「まさか、車で行く気ですかっ?」
追い抜かれるっ、と怯えて言ったが、
「いや、歩いた方が早いだろ?」
と高秀は言う。
そうですかっ、と言いながら、砂月は早足で歩き出していた。
「何故、逃げる」
高秀の方が身長があるので、脚も長く、普通に歩いているだけで、簡単に追いつきそうになる。
「雇い主より先に着かなければ、無礼かなと思いましてっ」
近寄らないでくださいっ、と言って、
「いや、今の態度の方が無礼だと思うが……」
と言われてしまう。
だが、砂月の意思を尊重し、少し遅れて歩いてくれているようだった。
「まあ、お前が先に着いても、鍵が開いてないかもしれないが」
と高秀が後ろから言ってくるので、
「では、玄関でお待ちしておりますっ」
と振り返り言う。
なんだろう。
この頑張り、全然、意味ない気がしてきたな、と思いながらも、砂月はシャカシャカと歩く。
「おはようございますっ」
病院の入り口で砂月は急いで向きを変え、高秀に向かい、頭を下げた。
「……おはよう」
さっきから会ってるが、という顔で高秀は言う。
確かに茶番じみている……と砂月が思ったとき、自動ドアが開いた。
「なんだ、もう開いてたな」
「泥棒ですかっ?」
「……酒井さんが来てるんだろう」
もう一人の受付の人だ、と高秀は言う。
すぐに奥から、砂月の母くらいの歳の女性が出てきた。
この人が酒井さんだろう。
保母さんっぽい雰囲気の笑顔の柔らかい女性だった。
「あらー、可愛いらしいお嬢さん。
この人がお好み焼き屋でスカウトしてきたっていう、新しい事務の方ですか?」
「久里山砂月ですっ。
よろしくお願いいたしますっ」
と深く頭を下げると、
はい、よろしく~と微笑まれ、そのあと、酒井に一通りのことを習った。
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