12 / 28
むしろ、運命だろう
絶世の……
しおりを挟む買い物をしていたはずなのに、また、エコバッグの中身をぎゅう、と冷蔵庫に押し込めて外食することになった。
砂月はカンカンと音のする外階段を下り、にゃん太郎に挨拶して、お好み焼き屋に行った。
嘉子と高秀はすでに座ってメニューを眺めている。
……絵になる二人だな、と思っていると、宮澤がタウン誌を手にやってきて、高秀の横に座った。
絵になる三人だ……。
って、いつの間に、宮澤さんが増えたんだ、と思ったが。
「砂月さん、僕はこの店がお薦めなんですよ」
宮澤はこちらに気づき、嘉子に見せていたタウン誌を見せてくる。
「あっ、ここ気になってたんですよ。
山の近くにある奴ですよね?
宮澤さん、行かれたことあるんですか?」
「一度だけ、仕事のついでに寄ったことがあるんですよ~」
しかし、さすが営業の人だ。
するっと現れて、するっと場に馴染んでいるな~、と思いながら、砂月は嘉子の隣に腰掛けた。
「ねえ、どれがいいと思う?
お薦めはなに?」
嘉子はプラスチックのケースに入ったメニューを見せながら訊いてきたが、砂月は苦悩する。
「それはこの世で一番むずかしい質問ですっ」
すべてがお薦めですっ、と叫んで、お好み焼き屋のおばちゃんたちに笑われた。
お好み焼きは焼けるまでが長い。
小児科のシールの話をしていると、嘉子が言う。
「その制度はうちも導入すべきね。
……高秀さんのところはもう、シールとかいう話じゃなくなってるけど」
いつも子どもに泣かれるという嘉子は真顔でそう語っていた。
「だが、お前のところは大人の患者の方が多いだろう」
そう高秀が言うと、嘉子は考え込む。
「大人に受けるシールか。
そうだ。
白衣を着た高秀さんのシールを作ったらいいんじゃないかしら。
『頑張れよ』
とかメッセージをつけて。
小児科でも、ママさんたちにウケるんじゃない?」
「おばあちゃま方にもよさそうですねっ」
お好み焼きが焼ける前に、もうかなりビールが進んでいた砂月も機嫌良く頷く。
「私、今度、刷ってみます」
「待て」
と高秀が止めた。
宮澤が、
「海崎先生のシールもいいですが。
僕は、にゃん太郎のシールがいいと思います」
と口を挟んでくる。
「僕が作ってきます」
「でも、そのにゃん太郎とかいう猫の肖像権はどうなっているのかしら」
とこちらも酒が進んでいる嘉子が言う。
「にゃん太郎って、誰か飼ってるんですかね?」
と砂月は小首をかしげた。
「誰も飼ってなくても、本猫に肖像権があるんじゃない?」
「どうでしたっけねー。
そういえば、私、一応、司法試験にも通ってるんですけどね」
「へー」
「海崎先生のシールにしましょうか。
にゃん太郎の意思が確認できないから」
「待て、俺の意思はいいのか。
俺の肖像権は……?
っていうか、お前、今、さらっとなんか言ったな?」
仕事ないとか言ってなかったか?
弁護士になれ、弁護士にっ、と言われたが。
いや、いろいろあって、まだ司法修習を受けていないので、弁護士にはなれないのだが……。
「それでは皆様、おやすみなさい」
砂月はぺこりと店の外で頭を下げた。
「美味しかったわ。
また他の店にも連れていってね」
と嘉子が手を振る。
「じゃあどうも。
楽しい時間でした。
……このお好み焼き屋もあと少し、と思いながら食べたら、より美味しかったです」
とロクでもないことを言いながら、宮澤も去った。
外に、にゃん太郎がいなかったので、あっさり去った。
二人を見送りながら、
「呑んだ店から家が近いっていいですよね~」
とほろ酔い気分の砂月が笑う。
「そうだな」
「しかし、綺麗な方ですよね、嘉子先生」
「そうか?」
「絶世の美女って感じですよ」
「絶世のは言い過ぎだろ」
高秀も少し酔っているようだった。
「大西が絶世の美女なら、お前も絶世の美女になってしまうじゃないか」
そう言ったあとで、
「いやまあ、絶世のってほどでもないか……」
と呟いていた。
酔っ払いは素直だ……。
「絶世の……」
と高秀は横で、まだ呟いていた。
そういえば、絶世の美女とかよく口にするけど、具体的には、どんな意味なんだっけな、と酔っている砂月はスマホで調べてみた。
「『絶世の、とは、世に比較するもののないこと。
並外れていること』」
「絶世の……
美女ではないから……」
そこは繰り返さなくていいです、酔っ払いの人、と思ったとき、高秀がこちらを見ながら言った。
「絶世の……
絶世の……久里山」
世に比較するものがないくらい久里山。
これ以上ないくらい久里山。
……褒められているのだろうか?
私を形容する特にいい言葉が思いつかなかったようだ。
まあ、絶世のニートとかよりはマシか。
いやもう、海崎先生の温情により、雇っていただいたので、ニートではないのだが、と思いながら、
「よーし、じゃあ、もう帰って食洗機回して寝ます」
そう言って、
「食洗機があるのかっ」
と驚かれる。
ボロいアパートだからだろう。
「おばさんが、不動産屋さんに、
『今どき、食洗機のひとつもないと人、入りませんよ』
って言われたらしくて。
『まあ、名前もリバーサイドヒルズだしね~』
って、つけてくれたらしいです。
そして、トイレも全自動です。
あ、疑ってますね?
見に来られますか?」
と笑って言うと、
「……え」
と高秀が固まった。
42
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
幸せのテーブル〜限界集落でクールな社長に溺愛されて楽しく暮しています〜
ろあ
キャラ文芸
職場に馴染めなかった二十三歳の蒔菜。
上司たちに嫌味を言われるようになり、心が疲れてしまい、退職を決意する。
退職後、心を癒やすために地図で適当に選んだところに旅行へ出掛けるが、なんとそこは限界集落だった。
そこで財布をなくしたことに気づき、帰る手段がなくなってしまう。
絶望した蒔菜の前に現れたのは、クールな社長の聖だった。
聖は蒔菜を助けて、晩御飯に手料理を振る舞う。
その料理は、何を食べても美味しくないと鬱々していた蒔菜にとって心が温まるものだった。
それがきっかけでふたりは仲良くなり、恋人へ……。
命の恩人である聖の力になるために、蒔菜は彼の会社で働き、共に暮らすことになる。
親には反対されたが、限界集落で楽しく暮らしてみせると心の中で誓った。
しかし、限界集落に住む村長の娘は、都会から引っ越してきた蒔菜を認めなかった。
引っ越せとしつこく言ってくる。
村長に嫌われてしまったら限界集落から追い出される、と聞いた蒔菜はある作戦を実行するが……――
溺愛してくる聖と居候のバンドマンに支えられて、食事を通して、変わっていく。
蒔菜は限界集落で幸せを掴むことができるのか……!?
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる