ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ

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盗聴器が出てきました……

何故、その人に訊くのですか……

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 准が、
「嫌がらせか。
 それもいいな」
と言い出した。

「だって、こいつ、俺が此処に来る前の、葉名がひとりで寝ていたときの音も全部聞いてたわけだよな。

 葉名が可愛らしく寝返りを打つ音とか」

 いや、そんな、と葉名は照れる。

「可愛らしく寝言を言う声とか」

 ……私、寝言言ってますかね?

「可愛らしくイビキをかくのとか」

「イッ、イビキはかいてませんよっ」
と叫んでみたが、自信はない。

 自分ではわからないからだ。

 思わず、盗聴器に向かい、小声で訊いていた。

「わ、私、イビキ、かいてますかね……?」

「何故、そいつに訊く。
 俺に訊け」
と准は言うが。

 いえいえ。
 貴方の口からハッキリと、お前、イビキかいてるぞ、と言われたくないからです……。

 乙女の恥じらいですよ、ええ、と思いながら、盗聴器を見つめていると、准が、

「なんか葉名が俺より盗聴器男を信頼してるようでムカつくな」
と言い出した。

「やっぱり、嫌がらせしてやろう。
 黒板でも引っ掻いてみるか。

 葉名、黒板持ってこい」

「いや、ないですよ」

「じゃあ、誠二、買ってこい」
と准は後ろを振り返る。

「……もう外したらいいんじゃないですかね? 盗聴器」
と葉名は言ったが、

「お前が外す気もなく、小声で話せとか言うからだ」
と言い返されてしまった。

「だから、ついでに嫌がらせしてやろうかと思ったんじゃないか」
と言う准の後ろで、突然、誠二が言い出した。

「僕歌うよ。
 ギター持ってくる」

 は? と声を上げる間もなく、そのまま出て行ってしまう。

 パタンと玄関扉の閉まる音を聞きながら、葉名は訊いた。

「……誠二さんの歌って、人に聴かせると嫌がらせになる感じなんですか?」

「単に聴かせたいんだろ。
 そういや、昔からよく夜の植物園でひとり弾き語ってた」
と言いながら、准は盗聴器に顔を近づける。

「こいつは、葉名の独り言とかも聞いてたんだろうな。
 友だちと電話でしゃべってるのとかも。

 俺のこととか、なんて言ってるんだろうな」

 あなたこそ、なんで、横に居る私じゃなくて、盗聴器の人に訊くんですか……。



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