ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

文字の大きさ
5 / 86
運命は植え込みに突っ込んでくる

深く知ったら、余計に不安になるな

しおりを挟む
 
 車の後部座席から、中に入ろうとしているあかりを見ながら青葉は思っていた。

 すぐに入らなかったが、見送ってくれていたのだろうか。

 いや、きっと、なんか変な奴がやっと帰った、とか。

 厄介な奴が帰ってくれた、とか思って見てたのに違いない。

 仕事の上でも、その他人間関係でも、常にポジティブな方が上手くいくと思って、そうしているのだが。

 何故か、あの女店主を前にすると、ネガティブになる。

 嫌な気持ちになるとか言うんじゃなくて。

 ……自分に対する彼女の評価が気になりすぎるというか。

 きっと、事故を起こした相手だからだな。

 ああいう可愛いんだか、綺麗なんだかわからない顔は好みじゃないし。

 青葉が純粋に綺麗だと思うのは、昔の外国の女優などだった。

 全世界の誰が見ても、綺麗だと思うような。

 おそらく、そんな感じの顔立ちの母親に、
「これが綺麗ってものなのよ」
と幼き頃から、しつけられたからだろう。

 そういえば、さっき、あの店主の父親、俺を見て青ざめていたな。

 もしや、あの子が言ってたみたいに、俺のことをあいつの彼氏だと思ったとか?

 いやいや、そんなことはない。

 あんなぼんやりした感じの女と自分がカップルに見えるとかない。

 だが、その危険性もあるので、ちゃんと、自分は事故の関係で挨拶に来ただけだと丁寧に挨拶して、印象づけておいた。

 そのとき、ふと、その父親が連れていた子どもの顔が頭に浮かんだ。

 子どもは苦手だが、そんな自分にも、必死に三輪車をこいでいるあの子の姿は可愛く映った。

 弟ってことは、あの子も大人になっても、あの店主みたいに、ぼんやりしてんのかな。

「いやいや、姉弟全部ぼんやりってことはないでしょうよっ」
とあかりに言われそうなことを考えながら、社長室に戻ると、全然ぼんやりしていない来斗が待っていた。

「社長、人事の吉田部長がお待ちです」

「ああ、すまない。
 ちょっと寄り道したから。

 遅くなってしまったな」
と言いかけ、ふと嫌な予感がして訊いてみる。

「来斗、お前の名字って、なんだったか?」

 みんなが若手の来斗を可愛がって、来斗来斗と呼ぶので、つい、自分も来斗と呼ぶようになっていたが……。

「鞠宮です」

「……この辺りには多い名字か?」

「この辺りには、うちとうちの親戚だけですが」

「……鞠宮あかりは、お前の親戚か」

「姉です」

「カケラも似ていないようだが……」

「そうですか?
 よく似ていると言われるんですが」
と言いながら、来斗はなんとなく顔に手をやってみている。

 いや、顔の話ではない。

 そういえば、顔立ちもすらっとした長身なところも似ているが、と思ったとき、
「姉をご存知なんですか?」
と来斗が訊いてきた。

「お前の姉が、俺が前庭に突っ込んだ店の店主だ」

 ええっ? と来斗が驚く。

「じゃあ、あなたが猫とおばあさんをひいて、店に突っ込んできた人ですかっ」

「どんな伝言ゲームだ……」

 それ、最悪だろ、と言った青葉は、
「避けて突っ込んだんだ。
 そうか。
 お前のおねえさんだったのか。

 みなさんによろしく伝えてくれ。
 すまなかったと」
と言ったあとで、

「そうだ。
 今、店の前を通ったんで、様子を見に寄ったんだ」
と言うと、来斗は、

「そうだったんですか。
 わざわざありがとうございます」
と頭を下げてきた。

「なんか近所の子たちに怪しい呪文を教えて踊ってたぞ」

「……申し訳ございません。
 昔から、そのような感じの姉なんで」
と来斗はまた頭を下げる。

「いや、別に面白かったが」
と言いながら、どのような感じの姉だ、と思う。

 それにしても、このやり手の秘書とあのぼんやり店主がいまいち結びつかないんだが、と思いながら、青葉は訊いた。

「じゃあ、あのちっちゃい子もお前の弟か」

日向ひゅうがが店に来てたんですか?
 なにか壊してなかったですか?」

 心配性な弟は、小さい弟の心配もする。

 姉もあんな感じだし。

 大変だな、こいつも。

 まあ、だからこそ、こいつ一人がしっかり者になったのかもしれないが――。

「しかし、お前の姉、ぼんやりしてはいるが、あの年で自分の店をオープンするとか。

 意外とお前に似てしっかりしたところもあるのか?」

「ないですよ」

 あっさり弟はそう言った。

「ないですよ。
 なので、心配しかないです」

「だが、店の開店資金とか大変じゃないか。
 どうやって……」

 何年かOLをして稼いで貯めて、店を開きました、という年でもない気がするが。

 ただの童顔なのだろうか?

 来斗は妙な感じに沈黙している。

「ちょっと金の出所は……」
としばらくして小さく来斗は言った。

 サラ金!?

 街金!?

 闇金!?

 親が出したとかでもなさそうだ。

 青葉は急に不安になってきた。

 サラ金で金を借りて必死にはじめた店の前庭を潰してしまった気がしてきたからだ。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

Perverse second

伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。 大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。 彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。 彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。 柴垣義人×三崎結菜 ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

処理中です...