ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

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運命は植え込みに突っ込んでくる

そこは突っ込むまい

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「今日はありがとうございました」

 ファミレスを出たあと、あかりは寿々花の車の前で頭を下げた。

「乗っていきなさいよ。
 どうせ、日向に会ってから帰るんでしょ?

 私もちょっと顔見たいから」
と言われ、孫と会う機会を潰しても悪いな、と思ったあかりは、素直に乗せてもらうことにした。

 ……車に泥を落としたりしたら殺されそうだ。

 そんなことを考えて、つい、駐車場のアスファルトに靴底をこすりつけていたが。

 寿々花に気づかれ、
「なに、イノシシかなにかみたいに、前足で地面を掻いてるの。
 ……うちの馬もなにか欲しいときや、不満があるときやってるけどね」
と言われてしまう。

 ……すみません。
 不満など、なにもございません、とあかりは無駄な抵抗をやめ、助手席に乗った。

「店の方はどうなの?」

「はあ、ぼちぼちです」
と話していたとき、ちょうど車があかりの店の前を通った。

 めざとい寿々花がすぐに気づいて言う。

「……なんで植え込みが壊れてるのよ」

「それが車が飛び込んできまして」

「何処のおじいさんよ」

「……いや、飛び込んできたの、若い男の人で」

「なにそいつ、免許取り上げなさいよ」

「いや~、おばあさんと猫を避けて突っ込まれたそうなので。

 まあ、……やさしいところのある人ではないかと」

 壁に激突した可能性もあるのに、青葉は大きく猫を避けたようだった。

「そうかしら?
 ただのマヌケじゃない?」
と寿々花は言い放つ。

 車があかりの実家に着くと、寿々花は家からもれる灯りを見つめ、日向の笑い声に耳を澄ませているようだった。

 ちょっと口元が笑ってるように見えるな、と思いながら、あかりは訊く。

「あの、なんで、うちで育てていいっておっしゃったんですか? 日向」

 今なら訊けそうな気がしたからだ。

「……真希絵さんたちを見てて、うちより、ここで育った方が日向がいい子に育ちそうだったからよ」

 そうだったんですか。

 でもあの、あなたが毛嫌いしている私もこの家で育った子なんですが、と思ったが。

 そこは突っ込まないでおいた。
 


 次の日の昼休み。

 あれから、こっちに来る用事なかったな、と思いながら、青葉はなんとなくあかりの店を訪れてみた。

 まあちょっと近くに用事があったから、と言い訳しながら、駐車場に車をとめる。

 前庭はまだ崩れたままだった。

 外から覗くと、客はおらず、あかりはカウンターのところで、なにかのパンフレットを眺めているようだった。

 カランカランと鳴る年代物っぽいドアベルのついた扉を押し開けて入る。

 あかりはすぐに顔を上げ、こちらを見た。

「あ、いらっしゃいませー」

 その間の抜けた笑顔に、なんとなく、ホッとする。

「なに見てんだ?」
とカウンターに向かって歩きながら訊くと、

「ああ、ミュージカルの舞台を観に行ったので」
とパンフレットを閉じて表紙を見せてくれる。

 なんだかよくわからないが、絢爛豪華そうな舞台だ。

「あ、お読みになりますか?」
とあかりはそれを渡そうとする。

「いや、時間ないからいい」
と断ったが、あかりは、

「持ち帰ってご覧になっても結構ですよ。
 布教用なので」
と言う。

「……なんだ、布教用って」

「本やパンフレットには、三種類あるじゃないですか。

 保存用、自分で見る用、布教用」

 当然でしょう、という顔であかりは言うが、なんだそりゃ、と青葉は思っていた。

「まあ、これは二冊しかないんですけどね。
 布教用と自分の観賞用を兼ねているので」

 どうぞ、とパンフレットを渡されたが、いや、いい、と青葉は押し返す。

「そんなイケメンばかり出ているような現実味のない舞台には興味ない」

「いやー、そんなことないですよー。
 キャストの人、知ってる人に似てる人もいますしね」

「そういえば、こいつ、お前の弟に似てるな」
と青葉は従者っぽい格好をした男を指差す。

「えーっ?
 来斗、こんなに格好いいですか?

 それを言うなら、こっちはあなたに似てません?」
と結構なメインキャラを指差され、ちょっと照れてしまった。

 格好いいと言われることはあるが。

 いつも、ふーん、という感じなのだが。

 あかりに言われると、何故だか、どきりとしてしまう。

 ……いやいや、気のせいだ、と思いながら、視線をそらしたとき、店の外を走る小さな人影が見えた。

「あ、日向」
とあかりがそちらを見る。

 この間は三輪車に乗っていたが、今日は走っているらしい。

 後ろから慌てたように、女性が追いかけていた。

「あ、お母さんっ。
 まずいっ。
 隠れてくださいっ」
と言われ、

 いや、何故っ!?
と思った瞬間、あかりに頭を押さえつけられていた。

「隠れないと、私と結婚させられますよっ。
 うちの母にっ」

 どんな親だっ。

 適齢期の娘に近寄った若い男を、今だっ、とばかりに捕らえてめあわせる、女郎蜘蛛みたいな母親が頭に浮かんだ。

 いや、ちらと見えたあかりの母は、色白で、ほんわりした感じの人だったのだが。

 あかりは急いで店から出て行った。

 ようやく日向を捕らえたらしいあかりの母が戻ってくる。

 あかりと少し話して、日向を残し、何処かへ行った。

 あかりはカランカランとドアベルを鳴らして入ってきながら、
「すみません。
 お母さん、疲れたみたいなんで、ちょっと日向をここで預かろうかと」
と言う。

「ところで、あのー、なんの御用でしたっけ?」

 いや……御用などない、と青葉が思ったとき、また、カランカランと音がして、客が入ってきた。

「あ、いらっしゃいませー」
とあかりが振り向く。

「すみません。
 このショーウィンドウのスーツケースなんですが。

 これは売り物じゃないんですか?」
と客の女性が訊いた。

 あかりは日向を見て、客を見る。

 目を離した隙に、日向がガラス類をガチャンとやったり。

 飛び出していったりしそうだったからだろう。

「……もうちょっと時間があるから、俺が見ててやる」

 す、すみませんっ、と頭を下げて、あかりは客の方に行った。

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