ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

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運命は植え込みに突っ込んでくる

いい人がお前を捨てるのか?

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 さすがに毎日行くのはどうだろうな。

 昨日なんて、昼も夜も行ってるしな。

 青葉は、数日、あかりの店に行くのを我慢しようとした。

 だが、さりげなく、あの店の前を通ったとき、あかりのシルエットが見え、

『植え込み壊した程度の俺のことなんて。
 二、三日行かなかったら、すぐに忘れるんだろうな』
という自分の言葉が頭に蘇った。

 気がついたら、車が店の駐車場にとまっていた。

 ワープした……と思ったが。

 どう考えても、自分でハンドルを切って、駐車場にとめたとしか思えない。

 あかりがこちらに気づいたようで、窓から覗いて笑う。

 ……なんというか。

 冬のシチューのCMで、少し曇った窓から子どもが覗いて、えへっ、と笑う、みたいな、ほっこり感だった。

 いや、ほんとうにそんなCMがあるかは知らないのだが……。

 ……帰りたいな、と青葉は思う。

 お前のもとに、
『ただいま』
 って帰れる男になりたいな、と。

 何故、このマヌケ女にそんなに惹かれるのかわからないが。

 全然好みじゃないと思うのに。

 これが恋というものなのだろうか――?

 いや、そんなまさか……と思いながら、青葉はカランカランと勢いよく店の扉を開けて言った。

「どうだ。
 トップページに載せるのにいいセール品は見つかったか」

 

 ……やっぱり、面倒見いい人な、この人。

 お値打ち品が見つかったかどうか、心配して来てくれたのか、と思いながら、あかりはちょうど手にしていたランプをカウンターに置いた。

 外にもうひとつ飾ろうと思って、火をつけようとしていたとき、青葉が来たのだ。

 あらためて火を灯し、ランプを覗き込むと、炎に照らし出された顔が、ほんのり、あたたかくなる。

 その揺らめく落ち着いた光に、あかりは、ちょっと微笑んだ。

 振り返ると、青葉がこちらを見ていた。

 だが、視線を合わすと、目をそらしてしまう。

 なんなんだろうな、と思いながら、あかりは外にランプを引っ掛けて、また戻ってきた。

 青葉はあかりの目を見て言う。

「お前……

 の、いや、日向の父親のことが知りたい」

 最初に、お前の、と来たので、一瞬、『お前の父親』のことが知りたいのかと思い。

 いや、何故ですか、と思ったのだが。

 どうやら、青葉は『日向の父親』のことが知りたいようだった。

 いや、何故ですか、とやっぱり思う。

 実は、妙な言い方になってしまったのは。

 青葉が、『お前の好きだった男』と言いたくなくて、途中で言いかえたせいだったのだが。

 あかりはそのことに気づかなかった。

 青葉は自分で言っておいて、困った顔をし、

「こ、今後の参考に」
と言う。

 ――いや、なんの参考に?

 よくわからないけど、まあいいか。

 ランプの灯りを強調するために、薄暗くしてある店内のカウンターに戻り、あかりは言った。

「そうですね。
 うーん。

 どんな人かと言うと、

 なんかこう……

 いい人な感じの人、としか」

「いい人がお前を捨てるのか?」

「捨てたっていうか。
 本当に一緒にいた期間って短かったんですよね。

 私が妊娠してしまったので、こんなことになってますが。
 そうでなかったら、通りすがりに、ちょっと袖が触れ合ったくらいの出会いだったのかも」

「ちょっと袖が触れ合ったくらいで妊娠するのか」
と冷ややかに青葉が言う。

 いやまあ、そうなんですけどね……。

「だが、お前がそんな短期間で恋に落ちて妊娠するとか、違和感があるんだが」

 情熱的に恋に落ちたりしそうにないタイプに見えるのに、と言われ、あかりは首を傾げながら言う。

「そうなんですよね~。
 今まで恋愛とかには関心薄かったので――」

「薄そうだな」

 ……いや、なにを根拠にと思いながら、あかりは言った。

「だから、今でも不思議なんです。
 よほど、相性がよかったんでしょうね、私たち」

 そう言い、あかりは外にかけたランプの灯りを見つめる。

 あの日、ふたりで見つめたのと同じランプの灯りを――。

「でも、突然、あの人、現れなくなって。
 心配してたら、妊娠がわかって。

 連絡先をたどって、なんとか連絡ついたと思ったら。

 いきなり母親とやってきて、冷たい目で私を見て、捨て台詞を吐いていきました」

「なんて?
 『それは俺の子じゃない』とか?」

「いや、『お前は誰だ――』って」

 青葉は首をかしげる。

「待て。
 お前は誰だって、変だろう?

 他人のフリでもしようとしたのか? その男」

「わかりませんよ、そんなこと。
 なんで私に訊くんですか……」
と言ったあとで、あかりは言う。

「まあ、いろいろあったにしても、もともと、忘れっぽい人ではあるんじゃないかと思うんですよ。

 その人、他にも忘れていることあるので」

「……いまいち、状況がわからないが」
と腕組みして唸ったあとで、青葉は言った。

「でも、そうか。
 そんなことを言われたから、その男はもう死んだって言ったんだな。

 ……それで一人で産んで、育てることにしたのか」

「いえ、一人でじゃありません。
 家族も友人もついててくれてたし」
とあかりが笑うと、

「そうか……。
 頼りになりそうな親御さんだもんな。

 来斗も」
と何故か青葉の方がしんみりとする。

「それに、向こうのお母さんもついててくれましたしね」

 青葉は、――!? という顔をした。

「何故だ……」

「いや、なんだかんだで初孫だから、ついていたいって」

「だが、お前はその母親と息子を恨んでいるんだろう?」

「恨みたいところなんですけど。
 なんか憎めない人なんですよね~、そのお母さん」
とあかりは遠い目をする。

「ちょっと気も合うし」

「合うのか……。
 お前を突き放した男の母親と」

「推しの趣味も合うので」

「……例の堀様か?」
と渋い顔をする青葉を見つめ、あかりは言った。

「私、息子さんのことも恨んでないです」

 青葉がランプの光の中、ちょっと驚いたように、こちらを見る。

「とても幸せだったんです。
 その人といる間。

 だから、私の側から、その人がいなくなってしまっても、恨んではいません」

 そうあかりは言い切った。


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