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ゼロどころか、マイナスからの出発
そんな理由で好きになるな
しおりを挟む社食で来斗はあかりが送ってきた日向の写真を眺め、困っていた。
いや、可愛いが、これを社長に見せろとかどういうことだ。
お前の写真を見せろというのなら、まだわかるが、と思ったが。
いや、可愛く撮れたおのれの写真を、社長に見せろと送りつけてくる女も怖いな、と思った。
「どうかしたのか?」
と前で日替わりランチを食べていた青葉が訊いてくる。
「いやー、姉がこれを社長に見せろと」
とおそるおそる日向の写真を見せると、何故か青葉の顔が輝いた。
ぜひ、送れと言う。
転送しながら、なんなんだろうな、と思っていた。
社長は、そうは見えないが、無類の子ども好きだとか?
っていうか、何故、ねーちゃんは、これを社長に?
まさか、社長に、日向の父親になってくださいとかっ?
と固まる来斗の顔を見て、迷いながらも青葉が言った。
「……俺がバラしていいのか、わからないが。
実は――
いろいろあって、俺が日向の父親なんだ」
「えっ?」
えっ? と訊き返しながら、耳も脳も今聞いた事実を素通りしていく。
「俺が日向の父親なんだ」
「えっ?」
もう一度、そう訊き返してしまったあと、周囲を窺う。
昼休みは終わっているので、広い社食に社員の姿はあまりなかった。
よかった。
聞かれてない。
いやいや、社長のことだから、その辺、確認したうえで、しゃべってるんだろうけど。
……でも、
えっ?
でも、なんだって?
来斗は頭の中で、青葉の言葉を噛み砕く。
ようやく意味を理解した来斗は、さーっと青ざめた。
今までさんざん、日向の父親のことを、
『見てくれだけいい、ろくでなしの詐欺師』
呼ばわりして罵っていたことを思い出したのだ。
「も、申し訳ございませんでした……」
来斗は社食のテーブルに両手をつき、土下座のように頭を下げて、テーブルに額を打ち付ける。
「ん? なにが申し訳ないんだ?」
という青葉は、そんな罵りの言葉は記憶にないようだった。
「そんなことより、あかりの連絡先、教えてくれ」
とご機嫌な様子で言う。
教えていいか、あかりに訊いてから、青葉に連絡先を送信すると、青葉は、嬉しそうに、あかりになにか送っていた。
しばらくして、キンコーンと返事が来たらしく、青葉はそれを読んで、ふっとやさしげに笑う。
……日向が社長の子?
長年、姉や母たちに苦労をかけるクソ野郎だと思っていた日向の父が、この社長?
……一体、なにが起こってるんだ、と思う来斗の前で、青葉はまた、あかりにイソイソなにかを送っていた。
青葉は結局、竜崎にも真実を話した。
今後、あかりや日向がらみの用事が入ったとき、スケジュールの調整を頼む都合があるからだ。
竜崎はショックを受けていた。
「まだ見ぬ美女が社長がまだ心を残している元カノだったなんて……」
好きになりかけてたのに、と呟く竜崎に、
「いや、お前、美人だという情報だけで、好きになるな」
と青葉は言ったが、
「だって、社長が気にしてる女性ですよ。
いい女に決まってるじゃないですか」
と言う。
「まあ、話だけだから、理想の人に頭の中で仕上がってたのかもしれないですね。
見たら、ガッカリかもしれませんし」
そう言う竜崎に、来斗と青葉は、
お前、俺たちの前で、見たらガッカリとか……、
と思っていた。
「うちの姉、これですよ」
と来斗は、どっかの家の犬と遊んでいるあかりと来斗の写真をスマホで見せていた。
竜崎は衝撃を受けていた。
来斗のスマホをとり、
「めちゃくちゃ好みですっ。
来斗を女装させたみたいじゃないですかっ」
と叫ぶ。
いや、何故、来斗を女装させたら好みなんだ……。
竜崎はまだ来斗のスマホを握ったまま、こちらを見て言う。
「社長、彼女と別れてくださいっ」
「いや、なんでだ……」
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