ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

文字の大きさ
55 / 86
ゼロどころか、マイナスからの出発

たこ焼きの誘惑

しおりを挟む
 
 二人がうどんだ、たこ焼きだと騒いで帰っていったので、あかりは、すっかりお腹が空いてしまっていた。

 特に、たこ焼きに誘惑されている。

 もう口にも鼻にも、実際にはない、たこ焼きのソースの香りが充満している。

 あかりはお昼になるのを待って、急いで、コンビニに行き、たこ焼きを買ってきた。

 戻ってくると、二つの白いビニール袋を手にした青葉が店の前に立っていた。

 そのビニール袋からは、ソースの香ばしい香りが立ちのぼっているようだ。

「お前がたこ焼きの話をするから……」

「いやいや、木南さんがしたんですよっ」

「まあ、どっちでもいい。
 食べたいんじゃないかと思って買ってきた」

「わ、私も買ってきてしまいましたっ。
 私のは近くのコンビニのですがっ」

 一緒に食べましょうか、と言ったあとで、あかりは植え込みがない方を見る。

「どうした?」

「いや、今こそ、自動販売機で飲み物買いたいなと思って」

 はは、とあかりは苦笑いした。

「買ってきてやろうか?
 飲み物」

「いえいえ、大丈夫です。
 なにか淹れますよー」
と言って、あかりは店の扉を開ける。

 青葉はビニール袋を少し持ち上げて言った。

「たくさん買ったから、日向やご両親にもあげてくれ」

「ありがとうございます。
 あ、なんか、うっ、て来るくらい香りが強いお茶とか好きですか?」

「……好きなわけないだろう」

 そんな話をしながら、二人で店に入る。



 タコ焼きがあるよ~と連絡を入れると、日向と幾夫がすぐにやってきた。

「ひゅうが、さんじょう~っ」
と戦隊モノかなにかの真似なのか、日向が言う。

 カウンターのスツールに参上した日向が、あつあつのタコ焼きを頬袋に詰め、ほふほふ言いながら食べているのを大人三人で眺めた。

 みんなでおいしくたこ焼きを食べたあと。

 幾夫がちょっとホームセンターに行ってくるというので、

「あっ、じゃあ、日向見てるよ」
とあかりは言った。

 お父さんも一人で、ゆっくりとかしたいだろうと思ったからだ。

 幸い(?)客もいないことだし……。

 日向は青葉と人形のおじいさんを客に見立て、ごっこ遊びをはじめた。

「綿菓子屋さんで~す」
と言う日向を青葉は目を細めて見ている。

 ……なんですか。
 子どもが可愛くて仕方ない普通の父親みたいな顔をして。

 ここまで私たちだけで産み育ててきたのに。

 あなたは、最近、いきなり現れただけのくせに――。

 その顔つきだけで、ああ、やっぱり、この人、日向のお父さんなんだなあとか思っちゃうじゃないですか。

 そんなことを考えながら、あかりはカウンターから二人を眺めていた。

 ……まあ、記憶を失ったのは、この人のせいではないし。

 息子の記憶にない、しかも、息子とたった一週間しか一緒にいなかったという女のことを寿々花さんが信じられなかったのもわかるけど。

 青葉さんの家は、普通の家じゃない。

 ある意味、不幸なことに、莫大な財産とそれにより生じた敵が一生、彼にはついて回るから――。

「綿菓子屋さんで~す。
 タコ焼きいりませんか~?」

「なんでだ……。
 じゃあ、まあ、タコ焼きひとつ」
と青葉が答えた。

 なにかがとり憑いてるかもしれないおじいさん人形は答えてくれなかったからだろう。

「タコ、入れますかー?」

 笑顔の日向が訊く。

「……タコ焼きだよな?」

「イカもありますよ~」

「じゃあ、タコとイカ、入れてください……」

 ありがとうございます~、と日向はレジを打つ真似をする。

「2コで100円。
 3コで、1000円になります~」
と笑顔で暴利をむさぼろうとするタコ焼き屋に青葉が異を唱えていた。

「何故、3コで1000円だ……」

「それはあれじゃないですかね?」
とあかりはカウンターから言った。

「いっぺんに3コ買いたいほどのタコ焼き中毒の人には、値段をつり上げるっていう……」

「あくどいな、このタコ焼き屋……」
と呟く青葉に、日向はタコ焼きを渡すフリをし、本物の1000円札をもらっていた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?

とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。 高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。 明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!! そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。 「なぁ、俺と結婚しないか?」 直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。 便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。 利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...