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海里のろくでもない日常
そんなことはいいので教えてください
しおりを挟む……どういう反応なんだろうな、これは、と海里は思っていた。
二人で同じボトルから呑もうと言っただけで、あまりは赤くなって俯く。
まさか、間接キスくらいで照れている!?
今更かっ?
だが、照れられるとこちらも照れてしまう。
なんとなく無言で二人で酒を呑んだ。
駅に着くと、
「すみませんー。
こっちですー」
と手を振るものが居る。
ん? 何処かで見たな、と海里が思っていると、そのタクシーの前に立つ男は、帽子を脱いで頭を下げる。
「いつぞやはお世話になりました。
子ども、無事に産まれましたよー」
とその帽子を振ってくれる。
あのとき、妻が破水して早産しそうだと慌てて帰った運転手、真木だった。
「いやあ、さっきお宅の会社の社員さんたち、乗せたんですよ。
それで、今からいらっしゃることがわかりまして」
と運転しながら、真木は笑っている。
横であまりが可愛い赤ちゃんの写真を見て、へー、と嬉しそうだ。
「可愛いな」
「はいっ」
「……欲しくなっただろ」
「はいっ」
ん? という顔をして、こちらを見る。
だが、目をそらして、外を見た。
じゃあ、子どもを作ろう、というのも、なんだかプロポーズとしてはあれだな、と思ったからだ。
うーん。
大体、いろいろ言い尽くしたしな。
なにを言ったら、結婚までこぎつけるのか。
せっかくの旅行なのに、海里は渋い顔で窓の外を見ていた。
海里さんは、旅行、楽しくないのでしょうか。
真木に写真を見せてもらい、子どもと妻の微笑ましいエピソードを聞きながら、あまりは海里の顔を窺う。
あんまり笑わず、渋い顔をしていたからだ。
どうしたんだろう? と心配になったあまりは、思わず、身を乗り出して見てしまっていたらしく、
「迫ってくるな」
と額を押し返されてしまった。
うーむ。
気になります。
途中、懐かしいあの空き地を通り、宿に着いたところで、
「料金は結構です」
と言う真木と海里が押し問答をしていた。
海里とともに降りていたあまりは、宿を見上げる。
「いや、払う」
真木と海里はまだ押し問答を続けていた。
「でも、あのあと、大変だったんでしょう?
早川さんに聞きました」
とお金を押し返しながら、真木は海里に言ってくる。
早川というのは、あのとき自分たちを拾ってくれた宿の運転手のようだった。
「そうだ。
そんなことはいいから、ちょっと」
と海里は真木の肩を抱き、背を屈め、小声で訊いた。
「ちょっと訊いてみるんだが。
その……どうやって奥さんにプロポーズした?」
ええーっ、と驚いた顔をした真木だったが、あまりを振り返ったあとで、なるほど、という顔をする。
「そうですね。
うちの場合は、親も年だし、そろそろ結婚しようかって。
あの、僕ら末っ子同士なので」
と照れたように笑っていた。
「……そんなに普通でいいのか」
「そんなに普通でいいんですよ」
考え過ぎですよ、犬塚さん、と言われてしまう。
しかし、普通でいいのは、相手が普通のときだけではあるまいか。
と、迂闊なことを言えば、カメの背に乗り、逃亡してしまいそうなあまりの後ろ姿を見ていた。
あまりは、そろそろ着くと思って待っていたのか、ロビーから出てきた秋月たちとハイタッチを交わしている。
……旅先に出ると、誰しもハイテンションになるようだ。
室長とその奥様まで、戸惑いながらも、ハイタッチの嵐に巻き込まれていた。
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