あやかし吉原 弐 ~隠し神~

菱沼あゆ

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隠し神

桧山

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 昨夜は座敷にさりげなく戻ると、今度はお孫さんの話をしているご隠居さんとの会話に加わった。

 しばらく話していると、ニコニコしながらご隠居さんが言う。

「明野さんと話していると、ほんとうに穏やかな気持ちになりますよ。
 あなたみたいな花魁も居るんですねえ」

 ありがたや、ありがたや、と何故か拝まれる。

 ちょうど追加の料理が届いたところだったので、障子が開き、廊下に立つ桧山の姿が見えた。

 呆れたようにこちらを見ている。

 料理が並べられている間、咲夜は、すっと立って、廊下に出ると、桧山が言ってくる。

「……まあ、客が喜べばなんでもいいのかもしれないけどね。
 遊女としては間違っているわよね」

 そうですねえ、すみません、と咲夜は新造たちと楽しく話しているご隠居さんを見ながら言った。

 確かに、これではただの話し相手だ。

 二代目明野は高いので。

 みな、物珍しさで、一度覗きに来るといった感じで。

 まだ、二度、三度と来たものは少ない。

 三度通わねば床入りしないなどと言うのは、大層な高級遊女くらいしか許されないことではあるが。

 幸い、咲夜は許されていた。

 まあ、すでに三度通ってきた者も居るのだが――。

 と咲夜が思ったそのとき、ちょうど、階段のところから那津が上がってきた。

「桧山」
とその姿を見つけ、呼びかけたあとで、

 ――まだ堂々と居るとか。
 さすが吉原一の花魁、神経が太いな、という顔をしていた。

 那津は長太郎が消えたあと、桧山と間近に対面するのは、これが初めてではないだろうか。

「隆次が来てるが……」
とどういう意味でか知らないが、那津は桧山に言った。

「おや、そうだんすか」
と桧山は気のない素振りで言う。

「実は、そっと顔を確認しようと思ってたんだが。
 桧山、実助さねすけとかいう、居続けの莫迦旦那は何処だ」

「隠し神の件だんすか。

 今、ちょうど寝てるだんすよ。
 廊下から覗くといいだんしょう」

 そう言う桧山に那津はついて行ってしまった。

 障子の向こうから、ご隠居の笑い声が聞こえてくる。

 咲夜は慌てて笑顔を浮かべ、座敷へと戻っていった。


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