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隠し神
一番のあやかしは――
しおりを挟む那津は外に出て、少しうろついたあと、丑の刻まで、妓楼の中を探索してみた。
男がうろうろしていても、客だと思われるだけだから、別に大丈夫だろうと思いながら。
そっと階段上の咲夜の部屋を覗いてみる。
今は隠し部屋でないそこでは、新造たちも混ざって、例の若旦那と双六をやっていた。
楽しげに盤上を覗いているみなと一緒に、長太郎も覗いている。
やはり居るな。
ということは、この若旦那もなにかの理由でそのうち、帰ることになるだろう。
目を細め、眺めていると、どうも、百種怪談妖物双六をやっているようだった。
妖怪の双六だ。
この、人ならぬ物ばかりがうろついている妓楼で、そんなものわざわざやらなくても、と思っていると、向こうから桧山がやってきた。
「あら、那津様」
としれっと呼びかけ、
「また、あちきのところにも、いらしてくださいだんす」
と言って、そのまま行ってしまう。
すぐそこで、自分が殺した長太郎が双六を覗いているのに。
そして、あやかしを映す彼女の瞳には、その姿がハッキリ映っているはずなのに――。
「……あの女が一番のあやかしだな」
と呟いたとき、下から左衛門が、
「那津様、そろそろご用意を」
と声をかけてきた。
「まったく、ちょっと覗いてみたいと言っただけで、あんなにごねるとは。
料金も上乗せされてしまったし。
私が穴蔵のものをみな持って逃げるとでも思っているのでしょうかね?」
いや、ほんとうにやりそうなんだが……。
支度を済ませた那津は左衛門の愚痴を聞きながら、内所で穴蔵屋の使いが来るのを待っていた。
「楼主なら駄目と言われるのがわかっていたら、最初から使用人のフリでもして待っておりましたのに」
「……いや、無理だろう」
と那津が呟くと、左衛門は通りに向けていた視線を那津に向け、
「何故です?」
と訊いてくる。
偉そうだからだよ、と那津が思ったとき、この間とは違う、腕っぷしの強そうな連中がやってきた。
大門まで歩いて、そこから、籠に乗って目隠しをしろと言う。
大門より内側に籠は入れないからだ。
言われた通りにして、籠に乗り込もうとしたとき、左衛門が言った。
「頼みましたぞ、那津様」
……なにを頼まれたのだろうな。
まあ、用心棒だろうな、と那津は思う。
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