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隠し神
穴蔵
しおりを挟む駕籠の中で目隠しをしていると、なんだかひんやりしてきた。
吉原の喧騒を離れ、川の側を走っているようだ。
ただの吉原帰りの客だと通行人には思われていることだろう。
まあ、この時間はさすがに吉原に向かう人は居ないと思うから、誰も見ていないとは思うが。
やがて、駕籠は止まり、降りろと言われる。
ギギ、と重い木の扉を開ける音が足元から聞こえてきた。
腕をつかまれ、
「そこから下の階段だ。
気をつけろ」
と言われる。
木の香りのする階段らしきものをことんことんと降りていくと、目隠しされていても、空間が広がったのを感じた。
後ろから男が言う。
「ほう。
なかなか腕の立つ用心棒のようだな。
何処も掴まず、目隠ししたまま下りるとは」
いや、俺は基本、坊主なんだが……と思ったとき、外していいぞ、と男に言われた。
布の目隠しを外し、振り向くと、左衛門は男たちの一人に後ろから腕をつかまれ、ひいひい言いながら下りてくるところだった。
狭い階段なので、落ちまいと踏ん張るように左衛門は両の壁に手をやり、突っ張っている。
那津は意外に広い地下の室内を見回した。
ずらりと物が並べてあるのだが、整然と片付いていて。
ちゃんと管理しているのだなという感じがした。
男が後ろで言う。
「此処が穴蔵だ。
なにも触るな。
信用第一の商売だからな」
男たちのビリビリした空気が伝わってくる。
安全安心を謳って、品物を預かっているのだ。
なにかあったら、信用に傷がつく。
そのとき、
「火事だっ」
という声が外から聞こえてきた。
男たちが慌てはじめる。
「火事?」
「大丈夫だ、此処は。
そのための穴蔵なのだから」
「火が出たぞっ。
逃げろっ」
と上から声がする。
ちっ、と舌打ちした男たちは、
「ちょっと上を見てくる。
自分たちの物を置く場所でも決めていろ。
あとで身体を調べさせてもらうからな。
なにか盗ろうとしても無駄だぞ」
と言って出て行った。
入り口の重い木の扉が閉まる。
「……火事になったら、穴蔵に遊女たちを入れようかと思っていたのに、私が閉じ込められてしまいましたぞ」
「暇なこと言ってないで、なにかやりたいことがあるのなら、早くしろ」
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