あやかし吉原 弐 ~隠し神~

菱沼あゆ

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隠し神

後始末

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 次の日、那津が隆次の店を訪ねると、ちょうど隆次は近所の店の人に呼ばれたようだった。

「すまんな。
 ちょっと行ってくる。

 待っててくれ。
 客が来たら、相手よろしく」
と隆次は出ていった。

 すまんな、と言われたが、那津としても、隆次が居ない方がちょうどよかった。

 店の奥。

 障子の前の上がりがまちに町娘のような格好をした明野が座っている。

「……いらっしゃい」

 咲夜ではない、本物の明野の霊だ。

 隆次には姿を見せていないようだが。

 此処で道具屋の女将さんの真似事でもしているのだろうか。

 妓楼の階段下に立っていたときとは雰囲気の違う明野を見下ろし、那津は言った。

「明野、お前に頼みがある」

 明野は、その一言でなにを頼まれたのかわかったようだった。

 彼女は今の扇花屋の、そして、咲夜の様子も時折、伺いに行っているのだろう。

「何故、私に頼むの」

「あいつを吉原一の花魁にしたくないんだろう?」

「でも、私と同じ顔でのぼりつめないというのもね」

 そう言いはしたが、まあいいわ、と明野は立ち上がる。

「あんたが買ってやればいいのに」

「そんな金はない」

「そうかしら?
 ……私、前より、もっと、いろんなものが見えているのよ」

 そんな風に明野は言った。

「それに――

 あなたの勝手で、咲夜に客をとらせないようにして。

 果たして、それはほんとうに咲夜の望むところなのかしらね。

 案外、咲夜は本物の花魁になりたがっているかもよ」

「お前がやらないと言うのなら。
 川へ行って、周五郎を探してくる」

「……ほんとうにやりかねないわね、この男」

 淡々としてて怖いったら、と明野が眉をひそめたとき、隆次が戻ってきた。

「ただいま。
 待たせたな」

 明野がそちらを見つめる。

 自分に向かって言ったのではないことはわかっているのだろうが。

 それでも明野はちょっと嬉しそうだった。

 生きているときにはなかったことだが、普通の少女のような顔をしている。

 だが、そんなしおらしい明野の姿は、隆次には見えていないので、彼は平気でこう言った。

「そうだ、那津。
 お前、どうせまた吉原に行くんだろう。

 これを桧山に渡しておいてくれ」

 ……何故、今、その名を出すんだ、お前は、と那津は固まる。

 窃盗団より、妓楼の楼主より、女の情念の方が怖い。

 だが、なにも気づいていない隆次は、那津に本を渡しながら言った。

「うちに貸本屋が置いてったやつだが、吉原出入りの貸本屋は持ってないみたいで、桧山が探してたから」

「……やっぱり、咲夜に祟るのやめて、桧山に祟るわ」

 明野が背後でそう呟いていた。


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