パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ

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書き初めに新年の野望として書こうと思っていた

我々、なにかが噛み合ってませんよね……?

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 は、早く食べろって、意味でしょうかっ、と思って、急いで食べ始めると、よく響くいい声で、
「落ち着け」
と言われる。

 まるで、散歩に連れて出たら、はしゃいで駆け回る犬に向かって言うような口調だった。

 ……この人の心の中の私のポジションはどの辺ですか? と思いながらも、芽以は言った。

「でも、今日も忙しいんでしょう?
 早く準備しないとですよね」

 いや、元旦からパクチー食べに来る人が居るのかは、知らないが……。

 でも、大晦日でもあれだけ押し寄せてきたんだから、居るかもな、と思っていると、
「いや、店の準備は昨日して寝ただろう。
 俺ももう下ごしらえは済んでる」
と言ってくる。

 じゃあ、なにを急いでるのかな。

 大掃除とか?

 いやー、さすがに引っ越したばかりで、まだするとこないよなー、と思ったとき、テレビが初詣の中継を始めた。

 今、逸人にお賽銭をあげたくなったことを思い出しながら、
「そういえば、今年は、初詣には、行けませんねー」
となんの気なしに言うと、逸人は、

「行けばいいじゃないか。
 まだ時間はあるぞ。

 ……実家にも寄れなくもないし」
と言ってきた。

「ああ、逸人さんちですか?」

 やはり、あれから挨拶に行ってないことが気になっていたのだろうか、と思い問うてみたが、
「そうじゃない」
と言う。

「うちになんか行かなくていい。
 お前の実家だ」

「えっ?

 うちですか?
 いや、いいですよ。

 この間行ったばかりですし」

 そこで会話は止まってしまった。

 なんなのかなー。

 なにかが噛み合っていないような、と小首を傾げながら、芽以は黒豆を食べた。

 実家の甘すぎる黒豆も美味しいけど、この上品な味付けのも美味しいなー。

 金粉ついてるとこ、より美味しく感じるし。

 ……いや、気分の問題だが、と思いながら、また、黒豆をつまんだ。




 俺は目標に向かって、コツコツ物を積み重ねていくのが好きだ。

 そうしているうちに、嫌いなものも、苦手なものもなくなったりするから。

 だから、いつでも、段取り良く、きちんとやって行きたいのだが――。

 おせちを用意したのはまずかっただろうか。

 そんなことを考えながら、逸人は黒豆を食べていた。

 芽以が忙しそうだったから、準備などできないだろうと思って、買ってきてしまったのだが。

 かえって恐縮してしまったようだ。

 ……のわりには、パクパクよく食べてるが、と思いながら、芽以を眺める。

 自分が早く食べろと言ったので、急いでいると芽以は思っているようだ。

 いや、急いではいる。

 だが、その理由を芽以には言い出せないでいた。

 さっきも言えなかったな、と思いながら、逸人は熱いお茶を飲む。

『あけましておめでとう。
 芽以、開店まで、まだ時間があるから……』

 時間があるから、初詣に行ってみないか?

 着物着て。

 ……圭太だったら、笑顔で言えるんだろうにな、と思ってしまう。

『芽以、行くぞ、初詣。
 着物着て。

 可愛かったじゃないか、この間着てたの』

 さらっとそう言う圭太を想像し、自分もそのまま言えばいいじゃないかと思うのだが、性格的に言えるわけもない。

 口に出来たとしても、なにか重々しく言ってしまい、芽以が、
『は……逸人さんのおうちには、初詣には、着物着て行かねばならない風習とか、因縁とか怨念とかあるんですかっ?』
とか青ざめて言ってきそうだ。

 こいつの発想も少しおかしいからな、とテレビを見ながら、おせちを食べている芽以を見る。

 芽以は、先ほどから、チラチラ、寿の和菓子を見ている。

 最後のお楽しみなのだろう。

 顔見ただけで、考えがすべて読めるってすごくないだろうか、と妙な感心をしていると、テレビが初詣のニュースを始めた。

「そういえば、今年は、初詣には行けませんねー」
となんの気なしにと言った感じで、芽以が言ってくる。

 今だな。

 今だ。

 今しかないっ、と思い、逸人は口を開いた。

「行けばいいじゃないか。
 まだ時間はあるぞ。

 ……実家にも寄れなくもないし」

 着物を着せてもらいに、と思いながら言うと、

「ああ、逸人さんちですか?」
と芽以は言ってくる。

 いや、うち、今、関係ないだろうが。

 うちの母親なんぞ、着物を着せられるわけもない。

「うちになんか行かなくていい。
 お前の実家だ」

「えっ?

 うちですか?
 いや、いいですよ。

 この間行ったばかりですし」

 そこで会話は止まってしまった。

 行き当たりばったりに夫婦になってしまった我々の間に、以心伝心という言葉はないようだ、と思う目の前で、芽以は、なんなのかなー、という顔をして、小首を傾げている。

 そのとき、芽以のスマホが鳴った。

「あ、おにーちゃんだ」
と芽以がとる。

「おにーちゃん、昨日はありがと……。

 は?
 着物?」

 普段から大きな聖の声が、こちらまで、もれ聞こえてくる。

 着物は着るのかと芽以の母親が側で訊いているようだ。

『着るのなら、すぐ来いってさ。
 こっちも初詣に出かけるから。

 今、水澄が着せてもらってる』

 聖さんっ。

 やはり、神!

 素晴らしいタイミングで電話してきてくれた聖に感謝しながら、逸人は、この機を逃すまいと立ち上がる。

「芽以、せっかくお義母さんが言ってくれてるんだから。
 早く支度しろ。

 此処は俺が片付けるから」

 よかった。
 新年の野望は、書き初めに書くまでもなく、達成できたようだ。

 いや、書き初めに『振袖』とか書いていたら、芽以に、
「……どうしたんですか」
とか言われそうだが……。




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