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週刊誌の記事になる……
しおりを挟む「やったっ。
俺がこのトーナメントの勝者だっ」
十数分後、健は立ち上がり、雄叫びを上げた。
「……それ勝つのにいくら使ったんだ。
勝者はお前じゃなくて、ゲーム会社だろ」
と田中は言ったが、彼女らは、
「健さん、また勝ったんですか?」
「すごいですね~っ」
と手を叩いて褒めてくれている。
ホストじゃなくて、客がホストをもてなしているようだ。
っていうか、待てよ。
よく考えたら、彼女らがこいつの稼ぎをまかなってるわけだから。
こいつの金の出所は、彼女たちだよな。
「勝ったのは、お前じゃなくて、この人たちでは?」
「いや、なんでだよ……。
あっ、めぐるんちゃんから返事あったよ」
とカウンターの上のスマホを見ながら健が言う。
「お前しなさそうだから、連絡しといた」
「えっ?
いつ……っ?」
「今、勝った喜びのままに連絡した。
すぐに返信あったよ。
もう放送終わってたから」
「すごい早業だな……」
「まあ、俺、打つの速いから」
と健は言うが。
いや、早業なのはそこじゃない、と田中は思う。
――お前、めぐるんの連絡先をいつ訊き出してたんだっ。
めぐるはラジオの生放送を終えたあと、てくてく歩いて近くのホストクラブに来ていた。
どうしよう。
ホストクラブかあ。
『天花めぐる、深夜のご乱行』とか……。
いや、週刊誌の記事になるような有名人じゃないから大丈夫か。
飲屋街だが、健全な雰囲気の場所だった。
地下にある小洒落たバーのような入り口。
店名間違いないから、ここだよな。
……それにしても、ホストクラブってもっとキラキラした感じのとこだと思ってた。
階段を下りためぐるは店名の入ったガラス扉を押し開ける。
誰も出てきてくれないので、薄暗い店内に向かい、
「こんばんは~」
と声をかけてみた。
いらっしゃいませ~という言葉こそあったものの。
何故か健も田中も、他のホストの人たちも、お客さんたちもみんな、ひとつのテーブルに集まって、問題集らしきものを覗き込んでいる。
「待って、それ発音違わない?」
とさらに他のテーブルから、派手な光り物みたいな服を着たおばちゃんがそのテーブルにやってきた。
身を乗り出して問題集を手に取り、素晴らしい発音で英文を読み上げ始める。
――あれっ?
ここって塾?
めぐるは少し戻ってみた。
だが、入り口には確かに、キメ顔の美しい男たちの写真が飾ってある。
……先生が選べるシステムの塾?
「あっ、めぐるんっ。
海外住んでたんでしょ。
ちょっと来てっ」
と健に手招きされ、
女子に挟まれ、ソファに座る田中には渋い声で、
「……めぐるん、助けてくれ」
と言われた。
何故、めぐるん……。
「いや、私いたのフランスなんで」
と言いながらも、彼女らのテーブルに近づく。
しまいには店内が薄暗いというので、デスクライトを持ち込み、みんなで英検の対策を練りはじめた。
一段落して、ほっと一息ついたところで、その大学生の女の子たちが、
「皆様、どうもありがとうございました。
喉、渇きましたね。
お礼に私たちから、皆様にドンペリを」
と言い出した。
いや、それほどのことはしてないんですけどっ。
あ、でも、お店のためには頼んでもらった方がいいのだろうか、とめぐるが思ったとき、光り物のおばちゃんが立ち上がり、言った。
「いや、ここは英検合格祝いに私がおごろう。
健、シャンパンタワー!」
「いやいやいやっ」
とみんなが止めに入る。
いくらするんだ、ホストクラブのシャンパンタワー。
あの、まだ、合格どころか、試験受けてもないんですけどっ、と娘たちは怯える。
「なに言ってんだい。
これだけみんなが協力したんだ。
受からないわけないだろう」
「あっ、ありがとうございますっ」
これでもう落ちたとは報告できないな、この子たち……とめぐるは苦笑いする。
おばさんは、すっとこちらに手を差し出してきた。
「天花めぐるさんだね」
「は、はい」
「私、あんたのファンなんだよ」
貫禄のあるおばさまの態度と口調に、こちらの方が、
はあ、すみません、ありがとうございます、
とへこへこしながら、握手をしてもらう。
「なんか、めぐるんちゃんの方が三木家さんのファンみたいだね」
と言って、健が笑っていた。
「『めぐるん』可愛い呼び名だね。
私もこれからそう呼ぼうか」
と三木家が頷いて言う。
「ほら見ろ、健。
お前がおかしな呼び方してるから、定着しそうになってるじゃないか」
と言う田中に、
「いやいやいやっ。
お前もさっきからずっと、めぐるんって言ってるからっ」
田中は、は? という顔をし、
「俺が言うわけないだろ」
と真顔で言った。
……いや、ここ来てから言ってました、ずっと。
どんだけテンパってたんですか、とめぐるは思う。
「そういえば、めぐるんちゃん、なんでいきなりラジオとか出てたの?」
と健に訊かれ、
「いや、それが不思議な話なんですけどね」
とめぐるは語り出す。
「若林さんがいきなり食堂に来られたんですよ」
「すぐに閉店しろ」
と田中が言う。
田中も若林が来たら閉店したいところなのだろうが。
棋士、どうやって閉店したらいいんだろうな、とめぐるは思う。
「それで、今度私の特集を雑誌でしたいから、ラジオに出てくださいって」
「相変わらず、意味がわからないな」
「なんか雑誌に載せる条件として、雑誌がコーナー持ってるそのラジオに出ないといけないみたいだったんですけど。
私が雑誌に出してくださいって言ったわけでもないのに、早くしてくださいよって。
よその雑誌が帰ってきた私の特集を組む前に載せたいからって」
そのよその雑誌というのが、どうも安元ルカの雑誌のようだった。
あれだけ、載せないからっ、みたいに言ってたのにな。
安元さんじゃなくて、他の人がやってくれるのかな?
と思う。
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