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私の推しは、にーろくふです
運命じゃない?
しおりを挟む「それでさ。
外国のお菓子ってフレーバー強めじゃない?
ちょっと日本のお菓子が懐かしくなったころ、フランスで、たまたま一個だけもらって食べたのよっ。
繊細な味付けのミニカヌレをっ。
なにこれ、日本人が好みそうな味って思って食べたんだけどさ」
めぐるは食堂で人の少ない時間、ふと思いついたスイーツを作っていた。
オムライスを食べに来た安元ルカがずっと横でしゃべっているのが、なんだかいいBGMになっていた。
スイーツ好きがスイーツを語っているからだろうか。
「最近知ったのっ。
あれ、あんたがフランスの雑貨ブランドとコラボして作ったやつだったのよ。
運命じゃないっ?」
どんな運命なんだろうな。
はるばる訪ねたフランスで、お腹空いたと友だちに言ったら、
「じゃあ、これ、あげる」
と一個くれた菓子が、たまたま小学校の同級生が作ったやつだった――。
「あ、結構、運命かもね」
「でしょう?
って、あんたなに作ってんのよ」
え? とめぐるはまた、心のおもむくまま、作っていた洋菓子を振り返る。
「……城?」
なにか巨大な城のような菓子ができている。
「この間から、巨大化しがちね」
「なんか延々と作っていたい気持ちだからかな」
「あんたのお菓子ってさ。
味はすごく繊細なのに。
形はさ。
これはっ! って感じに個性的で綺麗なときと、ちょっとスタンダードで雑だなってときがあったのよね。
でも、こっち帰って和菓子を作りはじめてから……」
ルカはまだ続きを言っていたようなのだが、もう作業に戻っていたので、淡々と決まり文句を言ってしまう。
「貴重なご意見、ありがとうございます。
今後、このようなことがないよう改善し、企画に反映していきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
またのご来店お待ちしております」
「機械的に言わないでっ」
さすが批評家の批判に慣れてる有名人様ねっ、とキレられる。
「あと、褒めてんのよっ。
和菓子作り出してから、またいい方に雰囲気変わったなと思って」
「え、そうなんだ。
ありがとう」
「褒めてやったんだから、田中竜王とあれからどうなったのか教えなさいよ」
「……じゃあ、褒めなくていいよ」
若林さんとは違う意味で、扱いづらい編集だな、とめぐるは思う。
「もし、田中竜王と上手く行きそうだったら、うちで対談してね」
「対談?」
「それで言うのよっ。
あのときの対談で出会いましたって!」
やらせがひどいっ!
「あのさー。
我々、一応、中学の同級生だからね。
……出会ってはなかったけど」
とめぐるは付け加える。
結局、ルカは城の完成まで付き合い、何度も写真に収めていた。
「ねえねえ、田中竜王と結婚したらさ」
待って。
対談で出会ったというやらせの話から。
結婚まで一気に、なんで飛んだ?
と思いながら、めぐるは城のケーキを飾っていく。
透明で美しい、蝶や花の飴細工で。
「ふたりで連載を持ってさ。
よくあるじゃん。
ほら、開運散歩みたいなの。
ああいうのやってよ。
でさ、他の雑誌があんたたち二人に、連載持ってくださいって頼んでも、忙しいんでって断るの」
……そんなに忙しいのなら、その開運散歩も断るよ。
「なんで、開運散歩なの?」
ルカはカメラを手にしたまま、無言でカウンターの上を指差した。
めぐるがさっきまで見ていた、縛られる地蔵などが載っている神社仏閣の開運本だ。
……なるほど。
「人気商売だしね、二人とも」
「違うよ……」
「あー、なんか楽しくなってきたっ。
夢いっぱいだねっ」
なんで、私と田中さんの未来にあなたの方が夢を持っているのですか、と思ったが、笑ってしまった。
「よしっ、ちょっと待ってて」
めぐるはグラニュー糖と水あめと水を鍋で温めると、二本の箸とフォークを使い、ふわふわの輝く糸飴を作り出す。
シュクレフィレだ。
これがかかっているだけで、高級そうな雰囲気になる。
大量に作った白めのシュクレフィレを城にかけると、ルカが、
「すごい。
なんか幻想的になったっ。
森の奥深く、霧の向こうに見える城、みたいなっ。
霧の中で、うっすら蝶と花が輝いてるのもいいね」
と言いながら、また連写する。
「ねえ、食べようよ。
この城」
「は?
なに言ってんのよ、この芸術作品を?」
「ありがとう。
でも、食べてこそのスイーツだよ」
座って座って、食べようよ、とルカに勧めたが、
「待ってっ。
もう一周っ。
あと上からも撮ってからっ。
椅子貸してっ」
と止められる。
『地蔵 現地集合』
そんな自分が打ったスマホのメモを見ながら、田中はバス停にいた。
めぐるから連絡が入り、予定の時間に遅れるので、先に行っておいてくれと言われたのだ。
「おっ、デートか?
めぐるんちゃんとっ」
と健や将棋クラブの先輩たちに冷やかされたが。
……『地蔵に現地集合』がデートだろうか?
そう思ったとき、
「あっれ~。
田中一郎~」
とちょっと高めの男の声がする。
なぜ、ここに久門っ。
「車壊れちゃってさー」
と久門が言ったとき、めぐるから電話がかかってきた。
「すみません。
時間通りに地蔵に行けませんっ」
「……地蔵に行けないって、なに?」
横から久門が言ってくる。
「聞くなよ」
「聞こえるんだよ」
お前の彼女、声デカいよ、と言う。
「実は、今っ、空港にいるんですっ」
なぜっ?
お前はどこに飛び立つつもりだっ、とスマホを握りしめていると、そのスマホに久門が耳を寄せてくる。
「その時間しか捕まらないって言うんで。
若林さんに連れてこられてっ」
誰が捕まらないんだっ。
っていうか、若林~っ!
すると、横から、
「空港、いいじゃん、行こうよっ」
と横から声がする。
「最近行ってないんだよね」
空港って、最近行ってないんだよね、で行くようなところだったろうか……。
久門が、
「久門ですっ。
今から、田中と行きますっ」
と勝手に言っている。
「いや、お前、どっか行こうと思って、バス停にいたんじゃないのか、おいっ」
「あ、ちょうどタクシー」
と久門はバスが向こうに見えているのに、ちょうど来たタクシーを止めていた。
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