同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ

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田中竜王VS天花めぐる

盤上の死神、田中竜王が欲しいもの

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 そして、健はトーナメントを勝ち上がった。

「ずるいぞ、健っ。
 お前、ほぼ素人じゃねえじゃねえかっ」
と参加していた清水たちが叫ぶ。

 田中を通じての飲み仲間だったらしい。

「勝ち残ったのは、なんと、ホストの岡本健おかもと けんくん~っ!」

 健とも親しかったらしい将棋連盟の人が嬉しそうに健の手をつかんで、掲げる。

 きゃーっと女性陣が騒いだ。

 三木家みきややあの女子大生たちも来ている。

 彼女らの手には健の写真の貼られたうちわがあった。
 


 青空のもと行われる対局を見ながら、雄嵩が言う。

「なにこの、チャラい人VSチャラい人みたいな戦い……」

 だが、久門は強かった。

 久門は苦手だと言ってはいたが、そこそこいいとこ行くのではないかと思っていたのだが。

 意外にも健はボロ負けしてしまった。

 久門は勝利に酔って調子に乗る。

「はははは。
 舐めてくれちゃ困るよっ、健っ。

 僕はねっ、こう見えても強いんだっ。

 竜王と名人には遠く及ばないけどねっ」

「……自分で認めた」
と苦笑いして、雄嵩が呟いていた。

 いや、でも、この意外にいさぎよいところは嫌いじゃないな、とめぐるは思う。

 なんだかんだ口ではいいながらも、腹の中では自分の弱さを認めているから、強いんだろうな――。

 健は逆にこれで、火がついたようで。

「やはり、現役の棋士は強い……。
 俺、絶対、将棋の世界に舞い戻ってやるっ」

「健さん、頑張ってください」
とうちわを振りながら、みんなが言うと、

「俺も竜王戦に出られるくらいになって、みんなと、めぐるんを争うよっ」
と宣言する。

「なんか私ではなく、『めぐるん』という賞品があるみたいですね……」

 作ろうかな、めぐるんとかいう幻のお菓子、とめぐるが言うと、みんな笑った。
 


「姉貴、モテモテだね」

 厨房に向かうめぐるに雄嵩が言う。

「いや、別に、誰も私を好きなわけじゃないのよ。
 好きと言うなら、お互いを好きなんじゃない?

 男同士、なにかを争ってわちゃわちゃ盛り上がっていたいだけなのよ」

 そうめぐるがもらすと、

「そうだね。

 でも――
 田中さんは違う気がするけど」
と雄嵩は言う。

「盤上の死神、田中竜王が欲しいものだから、みんな欲しがってるんだよ。
 優勝トロフィーみたいに」

「……田中さんが私なんて好きになるわけないじゃない。
 絶望のタヌキなのに」

「絶望のタヌキだからだよ。
 姉貴と田中さん、似てるよ。

 やっぱ、プロはすごいや」

 ストイックすぎてついていけないところも似てる、と言って、雄嵩は笑った。


 田中さんはストイックすぎるけど。
 私は別にストイックではないような、と思いながら、めぐるが一度、厨房から出たとき、田中たちに出くわした。

 スタッフの人たちと移動するところのようだった。

 田中も黒木田もこちらを見る。

 めぐるは二人に向かい、ぺこりと頭を下げた。

 田中さんに勝って欲しいけど。

 黒木田さんにとっても、竜王戦のリベンジとなる対局。

 田中さんだけに頑張ってくださいと言うのは違うな、と思ったからだ。
 


 田中は頭を深々と下げためぐるの姿を目に焼き付けたあとで歩き出す。

 横を歩く黒木田が言った。

「今日はお祭りでの対局だが、俺は本気で行かせてもらう」

「当たり前だ。
 俺もだ」

「……ところで、どちらかがご当地メニューを食べるべきだと思うんだが」

「……お前、わりとその地方の物を好んで食べてるじゃないか。
 遠慮せずに食べろ」

「お前こそ、いつも手堅い物を選んでるじゃないか。
 めぐるんはなんだか不思議な物を作ってきそうだぞ。

 体調のためにもご当地スイーツを食べろ」

 いや、あいつ、ああ見えて、天才パティシエだからな。

 まあ、不思議な物を作ってきそうではあるが、と思ったとき、

「あのー、別に気を使っていただかなくて結構ですよ。
 ご当地メニューは屋台の方でも出してますから」
と前を歩いていた現地の若いスタッフが、はは……と笑って言う。
 


 ちょっと暑いな……。

 冬のはじめとはいえ、特に日差しを遮るものもない野外ステージでの対局。

「どうせなら、人間将棋にすればよかったのにね」
とゲストとして登壇している久門がマイクを持たずに言う。

 ……そういえば、健のやつ、負けたんだったな。

 なんだかんだで強いな、と田中は思った。

 チャラチャラしてるように見えても、ちゃんと研究はかかさないし。

 まあ、プロだしな。

 そこで、軽快に司会の人が言う。

「さて、本日は、今、ここでお二人に勝負めしとスイーツを決めていただこうと思いますっ」

 並んでパイプ椅子に座る黒木田がぼそりと言った。

「……なあ、今日は短時間の対局なんだよな。
 いるか? 勝負めし」

「……どのタイミングで食べるんだろうな」

 まあ、今日はイベントだ。

 将棋連盟としても、将棋を普及させるのに一役買ってくれるのなら。

 勝負めしがメインになっても構わない、と思っているようだった。

 二人は無難な地元食材が入った食事を選び。

 問題のスイーツを選ぶことになった。

「さあっ、お選びくださいっ。

 どれが地元のスイーツで。
 どれが天才パティシエール 天花めぐるさんのスイーツなのか、メニューには書いてございませんっ」

 いやっ、書けっ、と二人は思った。

 スクリーンに映し出されるフルーツをふんだんに使ったパフェ。

 焼き菓子とアイスの盛り合わせ。

 ……絶対、めぐるじゃないな。

 次に、暗黒色のパフェが映し出された。

 ――絶対、めぐるだっ。

 会場がどよめく。

 真っ黒に見えて、光を当てると、ところどころきらいている。

「……なんだ、この思考の淵にはまる棋士をさらに絶望に突き落とすようなパフェは」
と横で黒木田が呟いていた。

 確かに美しいが。

 こんなときは、気分転換になるような華やかな物が食べたいんだがっ、と思いはしたが。

 いやいや。
 あいつとともに絶望を味わうのもまた一興。

 田中はこれを頼もうと心に決めた。

 次に、繊細な細い首をしたスワン型のシュークリームが現れた。

 ほお……とその美しさにみなが息を呑む。

 いや、これもめぐるではっ?

 いつか雄嵩のブログにも載っていた透明な飴細工の蝶がスワンにとまっている。

 誰でも喜びそうなスイーツだ。

 だが、俺はお前とともに、地の底まで堕ちようっ。

 一体、いつから俺の心にこんなにお前が入り込んでいたのか知らないが――。

 あの絶望のタヌキの目を見たときにシンパシーを感じたが。

 あの時点で、それはもう愛だったのだろうか。

 もう一度、順番にスクリーンに映し出されるスイーツに手をあげる仕組みになっていた。

 田中は、すっと絶望のパフェで手を挙げる。

 黒木田は湖畔のスワンだった。

「はい、両者、天花めぐる先生の作品となりました」

 ほっとしたように司会が言う。

 天下の天花めぐるを呼んでおいて、他のスイーツを選ばれることの方が問題だったのだろう。

 いよいよ、めぐるが登壇する。

「皆様、はじめまして。
 いえ、先ほどから、観客として、会場にいましたけど」

 客が笑う。

「天花めぐるです」

 堂々としているな。
 なんだかんだで、有名なパティシエ。

 場慣れしているようだ、と田中は思った。

「いや~、たまたまなんですけど。
 お二人とも、お二人をイメージして作ったものをそれぞれが選ばれまして」

 ――なんだってっ!?

 なぜ、黒木田が、光り輝く湖畔のスワンで。

 俺が暗黒で絶望のパフェっ。

 こいつの方が黒着てること多いのにっ。

 初めて会ったとき、スランプで俺の目が死んでいたからかっ?
と田中は衝撃を受ける。



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