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第二章 覗き女
辻斬り
しおりを挟む夜明けとともに起き、壊れかけの本堂の掃除をしたあと、那津が町中に行くと、川の傍、大きな柳の下の屋台で、小平が蕎麦を食べていた。
小平、と呼びかけると、
「だから呼び捨てるな坊主」
と返してくる。
咲夜がお稽古事で吉原を出てはウロチョロしているせいもあり、辻斬りのことが気になっていたので訊いてみた。
だが、小平は素っ気なく言う。
「あれからは出てねえよ。
ま、気にはなってるんだがな。
この辺りの女も吉原帰りに斬られたりしてるから、まるきり管轄違いという訳でもないしな」
「調べるのなら、俺も付き合おう」
と言ったが、小平は眉をひそめる。
「辻斬り調べるのに坊主なんぞ連れて歩いちゃ、縁起が悪いだろうが。
斬られた人間が死んだときの準備かと思われる」
なるほど、と小平と並んで蕎麦を食べていた町人たちが笑って相槌を打つ。
そのとき、ふと思いついた風に小平がにんまり笑って言ってきた。
「そうだ。
どうしても、ついて歩きたいのなら、坊主じゃない格好をしろよ。
この間みたいに医者とか駄目だぞ。
坊主と似たようなもんだからな。
吉原の船宿なら、お忍びで通う奴らのために、いろいろ変装道具が揃ってるだろ」
お前は、吉原には、でっかいツテがあるだろうが、と小平は言う。
「なあ、聞いてくれよ。
この男、当代一の花魁と評判の桧山と懇意なんだぜ」
そんな余計なことまで言い出した。
「ええっ。
そうなのかい?
偉い美形の坊さんだが」
そいつはいいこった、あやかりてえ。
なんか奢ってくれ、とあらぬ方向に話は転がっていった。
その日の午後、那津の許に長太郎が使いに来た。
桧山が会いたがっていると言う。
彼について、ゆったりとした昼見世の吉原に行き、寛いでいる最中の桧山を訪ねた。
「ちょうどよかった
あんたに会いたかったんだ」
那津がそう言うと、桧山は、
「あら、そんな言葉も言えるんだんすか」
と言って笑う。
そういう意味じゃない、と言おうかと思ったが、男をからかうのも上手いこの女に余計な材料を与えるのもと思い、そのまま用件を伝えた。
「吉原の辻斬りを調べたいと言ったら、変装してこい、と小平に言われたんだ」
「ああ、あの愉快な同心の方」
まるで、何処ぞの小僧について語るような口調で、桧山は言う。
「ところで、あんたの用件はなんだ」
そう訊いてみたが、桧山は立ち上がり、
「もういいだんす。
貴方のお話の方が面白そうだんすからね」
そう言いながら、禿を呼ぶ。
「付き合うだんす。
飴を買ってあげるだんすから」
はいっ、と禿は嬉しそうに笑い、付いてきた。
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