ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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スークと砂漠に行きました

ふたりで砂漠の夜明けを眺めてみました

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 真珠たちはホテルの広いバルコニーに上がった。

 大きなソファやアラビアンなデザインの布製のクッションがずらりと並んでいたが。

 滅多に雨の降らないドバイでは、特に天候を気にすることもなく、出しっ放しのようだった。

 ところどころ、ランプが置かれているが、かなり暗く、真珠は桔平に手を引かれながら、端の方まで出てみた。

 他にも人影は見えたが、広いので、距離があり、二人きりでいるかのように感じる。

 日が差さないせいか、高台に吹きつける風はかなり冷たく、充分着込んでいるのに身震いしてしまった。

 桔平が自分のコートをかけてくれようとする。

「いえいえ、大丈夫ですよ。
 カイロもたくさんあるので。

 いりますか?」
と逆に桔平の手にひとつ握らせたが、

「いや、お前にかけてやって、格好つけたいんだ。
 かけさせてくれ」
と何故かお願いされ、着だるまな上に、さらにコートをかけられる。

 やはり寒いのか、ぎゅっとカイロを握っている桔平が可愛らしく感じられ、少し笑って真珠は言った。

「こうしていると、なんだか暗闇の遺跡にいるみたいですね」

 石造りの建物の中、わずかなランプの灯りに照らし出された自分たちの影を見ていると、ちょっとそんな雰囲気だ。

「砂漠のホテルは何処もそんな感じのコンセプトで作られているところが多いからな。
 ……うちも次、砂漠に建てるときは、そうしたいな。

 それでいて、今までのホテルとは違う特色のあるホテルにしたい」
と言う桔平に、

「宝を埋めたらいいと思いますよ」
と真珠は言った。

「……なんだって?」

「遺跡といえば、宝ですよ。
 あちこち埋まってる感じにしたら、ときめきますよ」

「どうやって、あちこち埋まってる感じにするんだ」

「壁に暗号を書くとか。
 エントランスに謎の地図を置くとか。

 廊下の隅から隠し損ねた水晶が突き出してるとか。

 歩いてると、槍が飛び出してくるとか」

「いや、最後のは危ないよな……」

 趣味丸出しでそんな話をしているうちに、視界の端に光を感じた。

 眼下の砂漠を振り向く。

 闇の向こうに、一点明るい光が見えたと思ったら、あっという間に、その光が広大な砂漠を照らし出した。

「すごいですね……」
と真珠がもらすと、桔平は、

「これをお前と見たかったんだ」
と肩を抱き、頬にキスしてくる。

 ちょ、調子に乗ってますよ、この人……と思いながら、その手を肩から外そうとしたが、外れなかった。

 ゆっくり昇ってくる日を見ながら桔平は言う。

「いいホテルだろ。
 俺は、こうしてお前に贅沢させるために金持ちに産まれたのかもなって、思うんだ」

 湯水のように使ってもいいぞ、真珠、と桔平は言う。

「お前が俺の財産すべてを使い切っても、また頑張って稼ぐから」

「なに言ってるんですか」
と真珠は赤くなる。

「上に立つ人間がそんなこと言ってたら、社員の人たちが、この会社大丈夫かって不安になりますよ」

 桔平は砂漠を見つめ、
「今度は気球から見たいな、二人で」
と未来を語るが、真珠は、

 そのとき、我々はまだ夫婦なのですかね? と思っていた。

 お互いの都合だけではじまったこの偽装結婚。

 いつまで続くのだろうかな、と思っていたからだ。

「寒いな。
 入るか」
と桔平に促され、歩き出す。

「今日はここでゆっくりしてろ。
 二泊はした方が楽しめるだろうと思って、それで頼んであるから。

 ああ、ひとりで寂しいのなら誰か寄越すぞ」

「えっ? ほんとですか?」

「六十代、七十代、八十代、どのじいさんがいい?」
と桔平は微笑む。

 だから、何故、じいさん限定なのですか……と思いながら、真珠たちは暖かい室内に入った。



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