冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ

文字の大きさ
17 / 21
王様に気に入られてしまいました

なにかこう、もやっとするな

しおりを挟む
 
 数日後、王宮の廊下を歩いていたアルベルトは懇意にしている大臣に声をかけられた。

「ユイブルグ家の令嬢を王子に添わせるお話、順調なようですな」

 そう機嫌よく言ってくる大臣に、
「なにが順調なものですか」
と宰相は溜息をついた。

 だが、
「でも、マレーヌ嬢は、王子との婚姻に乗り気なようではないですか」
と大臣は言う。

「そうですか?」

「この間など、王子の好む菓子を調べて異国まで手配したとか。

 今は落ちぶれてはおりますが、ユイブルグには昔からの他国とのつてがありますしな。

 マレーヌ嬢が妃となったあかつきには、そのつて、王家にとって、強い力となりましょう」

 大臣はマレーヌと王子との婚姻後の政治的な話をしていたが。
 アルベルトは違うことが気になっていた。

 ……私には王子との婚姻には乗り気でないと言っていたが、あれは恥じらいであったのか?

 古いつてをたどってまで、王子に菓子を用意するとか。

「しかも、王子の方もマレーヌ嬢の訪れを日々楽しみにしているご様子」
「そうなのですか?」

 ここ数日は忙しく、マレーヌを執務室に送り届けるのは、マテオの役目となっていた。

 間で覗くようにはしていたのだが。

 そうか。
 王子はマレーヌが来るのをいつも心待ちにしていたのか。

 ……なんだろうな。
 気分がしゃっきりしないが、と思いながらも、仕事を済ませ、一段落ついたところで、マレーヌの様子を見に行こうとしたら、向こうからやってきた。

 マレーヌは意匠を凝らした紙箱を手に訪ねてきた。

 東洋風の布が貼ってある立派な箱だ。

「宰相様、東洋から取り寄せたお茶です。

 あまり珍しいものではないのですが、とても美味しいのです。

 ぜひ、お召し上がりください。
 いつもご迷惑おかけしているので」
とマレーヌは笑う。

「どうした。
 すまないな」

 娘を気遣う父からは時折、付け届けが贈られてくるのだが。

 マレーヌ自身からは初めてだった。

「エヴァン王子に東洋から珍しいお菓子を取り寄せたのですが。
 宰相様はお菓子はお好みでないようでしたので、お茶にしました」

 いつもありがとうございます、と微笑み、渡される。

「そうか。
 申し訳ないな。

 いや、私も別に菓子が嫌いなわけではないのだが」

「そうなのですか?
 では、あのときは我慢してらしたのですね」
と笑うマレーヌに、あのときとはいつだ? と訊いたのだが、マレーヌは何故か赤くなり、答えない。

 なんだかわからないが、マレーヌが自分のために取り寄せてくれたというお茶の入った箱を胸に抱いていると、さっきまでのイライラが消えていく気がした。

「今、王子との婚約の儀について、王様と話を進めている」
と今の状況について説明すると、そうですか、とさっきまで花のように笑っていたマレーヌの表情がくもった。

「ともかく、王子の相手が決まらぬと、みな、安心できぬからな」
「宰相様」

 マレーヌは小動物に酷似した愛くるしい瞳をこちらに向けて問う。

「宰相様はエヴァン王子の嫁を探すのに熱心でいらっしゃいますが。
 宰相様ご自身の奥様を探したりはなさらないのですか?」

 実は、マレーヌは、
 この件が片付いたら、安堵したアルベルトが自分の嫁探しをはじめてしまうのでは?
と不安に思っていたのだが、アルベルトはそんなことには気づくはずもなかった。

「そうだな。
 まあ、いずれは嫁をとらねばならないだろうが。

 とりあえずは、王子の妃を探さねば。
 お前がさっさと王子の元に嫁いでくれたら、探せるのだが」

 そう言ってみたが、
「じゃあ、嫁には行きません」
と言われてしまう。

 何故だ。
 ほんとうにこの娘はわからぬ。

 一国の王妃にしてやろうと言うのだぞ。

 感謝されこそすれ、そのような泣きそうな目をされる覚えはないのだが、
と思うアルベルトにマレーヌが訊いてくる。

「……何故、私なのですか?」

 うん? とアルベルトは自分を見つめるマレーヌの顔を見る。

「何故、私が適任だと思われたのですか。
 無害な娘なら他にもいると思いますが」

 アルベルトは深く頷き言った。

「確かに王家の支えとなる良き娘は他にもいるやもしれん。

 だが、私は自分の人を見る目を信じている。

 それが確かだったからこそ、数々の妨害も蹴散らし、こうして、宰相となれたのだからな。

 父のように、王の身近にあり、王を親身になって支えることが私の夢だ」

「……宰相様」


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...