冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ

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王様に気に入られてしまいました

やめるんだ、アルベルト!

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 マレーヌが帰ったあとも、執務室で仕事をつづけていた王子はいきなりすごい勢いで現れたアルベルトとマレーヌに詰め寄られた。

「王子、ちょっといいですか」

「ちょっといいですかって。
 もう入ってきてるじゃないか、お前たち」

 ここの警備はどうなってるんだろうな……と王子は呟く。

 アルベルトは王子のデスクに手を置き、身を乗り出すようにして言ってくる。

「王子よ。
 私は、このマレーヌがこの国で、いや、この王宮で一番愛らしい娘だと思い、王子にお薦めしたのですが」

 いきなり、なに告白しはじめた……? と思う王子をアルベルトが詰問してくる。

「王子としてはどうですか?

 マレーヌは好みですか?
 そうではないのですか?」

 今、ここで答えろというのか。
 私にも告白しろというのか。

 王家の人間にはプライバシーとか存在しないのか。

 まだマレーヌへの想いは、恋になりそうだな、くらいのふわふわしたものなのに。

 今すぐ、ここで覚悟を決め、照れたり迷ったりする間もなく、告白しろというのかっ。

 そんなことを思いわずらい、答えないでいる自分を見て、アルベルトは勝ち誇ったようにマレーヌに言う。

「ほらみろ、王子はお前のことを好きではないと言わないではないか。
 やはり、誰が見ても、お前は魅力的で可愛らしく、好きにならずにいられない娘なのだ」

 やめるんだ、アルベルト。
 聞いているこっちが恥ずかしい、と王子は頭を抱えていたが。

 言っているアルベルトの方はまったく恥ずかしそうでない。

 その口調には感情は感じられず。
 ただ、冷静に分析した結果を述べている。そんな感じだった。

 だが、お前は確実に血迷っているぞ、アルベルト。

 確かにマレーヌは愛らしいが、世界一愛らしいかというと、そうでもない、
と失礼なことを王子が思ったとき、マレーヌが反論しはじめた。

「いいえ、宰相様。
 エヴァン王子は、好きではない、とおっしゃらなかっただけで。
 好きだとはおっしゃっておりません」

「なにを言う。
 王子はお前を好いておられる。

 あまり恋愛の経験がないので、口には出せないのだ」

 待て。
 何故、お前が私の感情を決めるアルベルト、と思っていたが。

 それが正解のような気もしていた。

 そこで、アルベルトは、ふっと瞳に暗い影を落とす。

 今、勝ち誇っていたのにどうした? と思う王子の前で、アルベルトは言った。

「そう。
 わかっていたのに、淡い期待をしてしまった。

 こんなに愛らしく面白い娘を王子が選ばないなどと、そんなことあるわけもないのに」

 ……だから、なに私の前で告白しておるのだ、お前は

「いえいえ、何をおっしゃっているのですか、宰相様。
 誰もが、面白いを求めているとは限りません」

「そうなのか?
 私は面白くないより、面白い方が良いのだが。

 どんな苦難もお前のような娘がいて。
 いつも隣で笑っていてくれたら、楽しく乗り越えられそうな気がするのだ」

 ……いや、お前たちもう、二人で話したらどうだ? と思っているうちに、

「宰相様。
 王子は面白い女より、影のある女の方が好きかもしれませんよ」
とマレーヌに勝手に好みのタイプを決められる。

「影のある女なんて、厄介だろう。
 そもそも、何処にいるんだ、そんな女」

 酒場とかか、と言うアルベルトにマレーヌが言う。

「わたくし、心当たりがございます」

 えっ? 心当たり? と思ったとき、マレーヌが扉の方を振り向き、手を叩いた。

「マテオ、あの者を」
 はっ、と扉の向こうから声がする。

 マレーヌの腹心の部下にして、屈強なる若きイケメン、マテオが何処からともなく現れた。

 彼はその太い腕でメイドの格好をした赤い巻き毛の女を引きずってくる。

「いたたたっ。
 なにすんだよっ」

 王宮のメイドにあるまじき声を発する女を手で示し、マレーヌは言った。

「どうぞ、この方を王子に」

「この娘は誰なのだ」
とアルベルトが問う。

「影のある女スパイです」

「どこから捕らえてきたっ?」
とアルベルトとふたりで叫んでいた。

「わたくし、この度の結婚話のせいで、王宮に頻繁に出入りするようになってから、宰……

 王宮の女性はくまなくチェックしております」

 今、宰相様の周りをウロつく女はすべてチェックしておりますっ、という心の声が聞こえた気がしたが……。

 王子は、自分の部下にも見つけられなかった女スパイと、どこからともなく現れたマテオを見ながら、溜息をつき、呟いた。

「ほんとうに、ここの警備はどうなっているのだ……」

 そんな自分の前で、アルベルトがマレーヌに言う。

「落ち着け、マレーヌ。
 女スパイを王子にどうぞ、と差し出せるか」

 そんな厄介なもの、王子が寵愛しはじめたら、どうしてくれる、と文句を言ったあと、宰相はもっともな疑問をマレーヌに投げかけた。

「というか、お前、今回の件がなかったら、スパイのことを報告しないつもりだったのか」

「王宮にスパイなどたくさんおります。
 泳がせていらっしゃるのだろうと思ってましたが」

「……泳がせてはいない」
と更に頭を抱える。

「宰相、城の警備を一から見直せ」

 はっ、と言いはしたが、宰相の気持ちはよそを向いているようだった。

「それで、王子。
 マレーヌは王子の好みですか?
 好みではないのですか?」

 スパイも警備もさておき、アルベルトは淡々と、だが、言葉に力を込めて訊いてくる。

 いや、そもそもお前、さっきからずっとマレーヌに告白しているようなものだからな、と思いながら、王子は言った。

「……好みではない」

 好みでなかったわけではなく、好みだと言おうものなら、二人に殺されそうだったからだ。

 ほんとうにお前、なんで妃候補にマレーヌを連れてきた……。

 いらぬ失恋をしてしまったではないか、と忠実なる宰相を見ながら、王子は思っていた。



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