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あやしい古民家を手に入れました
その家には猫もついています
しおりを挟む「どうしても俺と一緒に住まないというのか」
あのあと、焼き鳥屋で貴弘に言われた。
「はあ、仮の妻なので」
「……じゃあ、何処か部屋を借りてやる」
よく冷えた日本酒を呑みながら、貴弘が言う。
カウンターに座ったので、目の前で焼き鳥が焼かれていた。
ああ、この脂が炭火に落ちる音とタレと脂の焦げた匂いがたまらん、と思いながら、のどかは言った。
「安い部屋がいいんですけどね。
お金ないので」
「お前が払わなくていいだろう。
俺が夫だ。
俺が払う」
「いやいや、そんなご迷惑をおかけするわけには……。
自分で払いますよ」
ともめたあと、
「じゃあ、俺の所有している、見たこともない古い家があるんだが。
そこに住んでみるか、家賃安いし」
と貴弘が言い出したのだ。
その問題の古民家だ。
所有者が見たことない家ってなんなんだと思ったが。
成人したとき、ひいおじいさんから祝いにもらった不動産のうちのひとつらしく。
手続きも人任せだったので、よく知らないらしい。
「不動産屋には話を通しておく」
と言われ、次の日、会社で、鍵と住所を渡された。
だから、正確には借りたわけではなく、人の入っていない半分のスペースを持ち主である貴弘が使う、という形になるわけなのだが。
相応の家賃は払うつもりだった。
一緒に引っ越しの下見に行って、その家を見た貴弘は、
「……これで一万円とか、ぼったくりだろう。
二千円くらいでいいんじゃないか? 家賃」
と言っていたが――。
いよいよ見えてきた風子のアパートを見上げたとき、風子が、
「駄目、限界。
一回下ろそうか」
と言ったので、すぐに同意し、道の端に下ろす。
ふうーと二人で冷蔵庫に手をつき、休憩した。
「でもさ、いいの?
一軒家ならいるじゃん、冷蔵庫」
「それが、今度の家、家具がついてるんだよねー」
へー、そうなんだーと言った風子だったが。
「なんかお茶碗とかも全部残ってるんだけど、さすがにそれは使わないかなー」
と言うと、
「……ねえ、その家大丈夫?」
と言ってくる。
実は前に誰が住んでいたのとか。
何故、家具も茶碗も残っているのかとか。
貴弘も知らないのだ。
なにせ、ひいおじいさんに、ドサっとまとめてもらった不動産のうちのひとつだから……。
「……前の住人、夜逃げしたんじゃないの?」
「さあー?
あっ、そういえば、家具もだけど、猫もついてるみたいなんだよね、その家」
「……なんだって?」
と風子が訊き返してくる。
「家具と猫がついてるみたいなの。
まあ、猫は家につくって言うもんね」
「微妙に意味が違う気がするけど……」
そう風子が言ったとき、行き違えないくらいの狭い道なのに車が入ってきて、二人と冷蔵庫はカッとライトに照らされた。
道向こうを楽しげに話しながらウォーキングしていた老夫婦が、路上に置かれた冷蔵庫とのどかたちに気づき、二度見する。
「やばい、逃げようっ」
と風子が慌てて冷蔵庫を抱えようとした。
「待ってっ。
急いで逃げたら、ますます挙動不審な人になるよっ」
「夜道を冷蔵庫抱えて歩いてたら、どのみち不審者よっ」
「じゃあ、昼間にすればよかったんじゃんっ」
「それはそれで、すごい注目浴びるでしょうよっ」
ほら、持ってっ、と急かされ、二人は冷蔵庫を抱えて夜道を急いだ。
のどかのアパートから風子のアパートへ行くのには、距離は短いが、商店街を通ったり、登校路を通ったりする。
確かに、昼間だったら、みんなが振り返り見ただろう。
「電気屋さんか運送屋さんの制服、借りてくればよかったねー」
「何処からよ。
そして、誰からよ……」
と風子に言われているうちにアパートに着いた。
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