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あやしい古民家を手に入れました
この家、雑草まみれですよ……
しおりを挟む怯んでは駄目だ。
もう、此処が自分の家なのだから。
のどかはその、よく言えば、古民家、悪く言えば、あばら屋な日本家屋の前に仁王立ちに立っていた。
まだアパートの契約も切れていないので、あっちで寝てもいいのだが。
早く此処を整えておきたいので、冷蔵庫を運んだあと、こちらに帰ってきたのだ。
またお隣さん居ないな、とL字型になっている家の東側を見る。
お隣は、今日も真っ暗だ。
なんの仕事してる人なんだろうな……。
玄関に置いておいたお蕎麦はなくなってるから、家に帰ってきてはいるんだろうけど。
自分もあまりこちらには居ないせいか、今まで一度もお隣さんと顔を合わせたことはなかった。
それにしても、大きな家だ、とのどかは、いつ建てられたものなのかわからない古民家を見上げた。
古いが、これで一万円なら破格の値段かな、と思う。
荒れ放題だが、広い庭もついているし。
シロツメクサっぽいものがたくさん生えていて、可愛らしい感じではあるが、まあ、雑草まみれだ。
草引きめんどくさそうだな~。
人工芝でも貼ろうかな。
いやいや、それより、草が伸びきるまで待って、上を草刈機で刈りそろえたら、芝みたいにならないだろうか、と風子たちが聞いていたら、
「ならないわよっ」
と叫んできそうなことを思いながら、昔式の古い鍵を手に玄関前まで行った。
すりガラスの玄関扉の横にある、木の赤い郵便受けも、その下の青い牛乳入れも年代物で、いい味を出している。
まあ、赤と青なんで、遠目に見たら、信号機のようだが……。
外灯はついてはいなかったが、月明かりで手許も充分見えた。
だが、鍵を開けてもすぐには入る気にならず、つい、外から家の中を窺う。
猫ではなく、ネズミが居ると言われた家の中を。
玄関横に見える、家をぐるりと取り囲む縁側のような廊下。
その廊下の厚ぼったい昔のガラス戸の向こうには、煮しめたような色の古いカーテンが下がっているのだが。
閉まりきらなくて、微妙に隙間が空いているのが怖い。
なにかが覗いていそうだ。
なにか……。
なんだろうな。
恐ろしいものを想像しそうになって、その姿をシッポにピンクのリボンをつけたマンガ的なネズミの姿とすり替える。
そうそう。
居るのは、ネズミ。
ちゅう、と暗い屋敷の中で鳴くネズミを想像し、よし、と玄関扉に手をかけたが、よく考えたら、なにも、よし、ではなかった。
家の中をネズミが闊歩していて、いいわけはない。
でもまあ、とりあえず、幽霊とかでなきゃいいや、とのどかは思っていた。
それでは――
「いきますっ」
と自分の家に入るのに、気合を入れながら玄関扉に手をかけたとき、
「おい」
と誰かが肩を叩いた。
ひーっ!
とのどかは闇夜をつんざく悲鳴を上げる。
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