14 / 114
あやしい古民家を手に入れました
他の女とは違うなにかがあるに違いない
しおりを挟む「大丈夫ですかっ?」
のどかは、扉の向こうに行ってしまったらしい貴弘の後をついて、にじにじと扉と壁の隙間をカニのように移動する。
すると、そこに部屋が現れた。
ガランとした大きな部屋だ。
電気も通っているらしく、貴弘が照明をつけた。
急に明るくなったので、のどかは眩しさに目をしばたたく。
その部屋は、北側に押入れのようなものがあり、東側にまた木製の扉があった。
そこには錠前が下がっている。
「あ、鍵……」
とのどかは呟いた。
「じゃあ、あそこが隣との境なんですかね?」
「そのようだな」
「ってことは、此処までが、私の陣地ってことですね」
「陣地?」
子どもか、と貴弘がのどかを見下ろす。
「一部屋もうかりましたね」
と笑うのどかに、
「……そういう問題か?
明らかになにか隠すように塞いであったろ、此処」
と貴弘は眉をひそめて言った。
「でも、子どもの頃、夢で見たりとかしませんでした?
実は家にもう一部屋知らない部屋があって、わあい、と喜ぶとか」
貴弘を見上げてそう言ってみたが、貴弘は部屋の中を油断なく見回しながら、
「使ってない部屋なんか、家にいっぱいあったから、別に、わあい、じゃない」
と言う。
……大嫌いだ、お坊ちゃんなんて。
きゃあ、とか言わないのだろうかな、この女……。
と思いながら、貴弘は横で、へえー、と物珍しげに部屋の中を眺めているのどかを見る。
正直言って、のどかをどう思っているのか、まだよくわからないのだが。
酔っていたとはいえ、今まで、結婚の「け」の字も思いつかなかった自分が、結婚しようとまで思った女だ。
何処か、他の女とは違うなにかがあるに違いない。
そう貴弘は思い、のどかを観察していた。
のどかは、おのれの陣地に、もう一部屋現れたことを素直に喜んでいるようだった。
俺はこの部屋、ちょっと怖いんだが……、と貴弘は思う。
空き部屋なら、使わないものなどを詰め込んでそうなのに、何故、この部屋にだけなにもないのか。
お前は気にならないのか? のどか、
と貴弘は、のどかを見てみたが、のどかは此処になにかを置くつもりなのか、部屋の中を歩き回りながら、ふふふ、と笑っている。
悲鳴を上げて、すがりついてくる気はなさそうだ……。
そう思いながら、貴弘は東側にある扉の鍵を確かめた。
「うん、開かないな。
しかし、此処の鍵は誰が持ってるんだろうな」
大家の俺も知らないが、と思いながら、今度は押入れの前に行く。
のどかが側に寄ってきた。
一緒に押入れを覗き込むつもりのようだ。
ちょっとワクワクして見える。
……楽しそうだな。
いっそ、なにか出てこないだろうか……と思いながら、押入れを開けてみたが、やはり、なにもなかった。
ただ暗い空間があるだけだ。
「あ、此処にもなにか入れられそう」
と機嫌よく、のどかが言う。
ひょいと身を乗り出ししてきたので、のどかの肩や髪がちょっと腕に触れそうになったが、その前に、のどかは居なくなっていた。
もう押入れには興味をなくしたらしいのどかは、今度は東側の扉の鍵をいじって見ている。
ひとり取り残された貴弘は、押入れを閉めようとして、気がついた。
隅に干からびた蜘蛛が落ちていたことに。
きゃー……とか、見せてもきっと言わないよな……、と思いながら、貴弘は静かに押入れの戸を閉めた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。
ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。
意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。
「あ、ありがとうございます」
と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。
あれは夢……?
それとも、現実?
毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる