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あやしい古民家を手に入れました
貧乏草ってなんですか?
しおりを挟む「はあ~、最高ですね、この天丼っ」
あやしい部屋を出たあと、のどかたちは貴弘が夜食にと持ってきてくれた天丼を食べていた。
玄関入ってすぐの広い部屋でだ。
幸い、家具はそろっているのでテーブルも幾つかある。
「高そうですよね、このテーブル」
とのどかは重そうなその黒いテーブルを見た。
「他の調度品も品がいいものばかりだし。
やっぱり、夜逃げとかじゃないんでしょうね」
だろうな、と言う貴弘に、のどかは彼が持ってきてくれた天丼の美味しさを熱く語る。
「本当に美味しいですね、この天丼っ。
カリカリパリパリの揚げたての天ぷらもいいですけど。
容器に入って少し、しんなりしたところに、とろみのある絶妙な甘辛ダレが染みてるのも最高ですねっ」
「夜食のつもりで持ってきたんだが、晩ご飯はもう食べてたのか?」
と問われ、
「いいえ、まだです。
ちょうどよかったですっ」
と言うと、
「そうか。
俺も忙しかったから、まだ食べてなかったんだ」
と貴弘は言う。
「そうなんですか。
連休なのに、全然、おやすみじゃないですね」
「なかなか、連休まるまる休める会社もないだろうよ」
そうですか。
私はクビになったので、暇ですが……。
でも、連休明けには、手続きもいろいろあるし、会社に顔を出さねばならんだろうな、と思う。
「……そういえば、お前、海崎社長と幼なじみなんだったな」
と妙な間を持って、貴弘が訊いてきた。
「はあ、腐れ縁でずっと一緒だったんですよ。
殴り殴られ、仲良く育ちました」
と言って、それ、仲良いのか? という顔をされるが。
いや、そのくらい遠慮のない関係で。
まるで男同士の友情のような感じだったのだが……。
「なんだかわからないけど、急に、
『もうお前の顔も見たくない。
クビだっ』
って言われたんですよ~。
……綾太がいきなり、うちの社長になったとき、ちょっとやりにくいな~と思ったんですが。
綾太もそう思ってたんですかね?」
「いや、たぶん違う理由だろうよ」
と貴弘は素っ気なく言う。
「お前は、とある方面には、ものすごく疎そうだからな」
「どの方面ですか?」
と味のよく染みたご飯部分を食べながら言ったが、貴弘は、
「まあ……、俺もあんまり器用な方じゃないけどな」
と呟き、立ち上がる。
帰るようだ。
外まで見送ると、
「お前、今日は此処に泊まるつもりなのか?」
と貴弘は、あやしいあばら屋敷を振り返り言ってきた。
庭から見ると、ちょうど月を背にしていて、今にもなにか出そうな感じだ。
「……とっ、泊まるつもりなのかって、此処、私の家ですからね」
とちょっと気弱になりながらも、のどかは言った。
だが、
「もうちょっと片付けてからにした方がいいんじゃないか?」
と弱い心につけ込むように貴弘は言ってくる。
いや、ただ心配して言ってくれているのだろうが……。
確かに。
手入れをしたら、いい家になりそうだが、今はただのあばら屋だ。
のどかが黙って家を見上げていると、
「……うちに来るか?」
と貴弘が訊いてきた。
「いえいえ。
では、アパートに帰ります。
そういえば、まだベッドもあっちだし」
とやはり、今日のところは、この屋敷から逃げ出すことにして言うと、貴弘は、……そうか、と言う。
「じゃあ、送ろう」
と言われ、のどかは慌てて荷物をまとめ、家に鍵をかけた。
「お待たせしました」
と言ったのどかに、貴弘はチラとあばら屋敷を見上げて、呟く。
「こんなところに無理して住まなくてもな」
いやいや、だから、此処、貴方が紹介してくれたんですよね~っ?
と思ったとき、貴弘が鬱蒼とした庭を見て言った。
「貧乏草も生えてるしな」
「貧乏草?」
「ヒメムカシヨモギだよ」
という貴弘の視線を追うと、よく荒地などで見る背の高い逞しい感じの草がたくさん生えていた。
「これ、貧乏草っていうんですか?
よく見かけますけど」
じゃあ、これ生えてる家、みんな貧乏なのか。
お金持ちの貴方の家にも生えているのでは?
と思ったのだが、貴弘は、
「なんで貧乏草っていうのかは知らん。
ばあさんが線路沿いに生えてるのを見て、よくそう言ってたんだ」
と言う。
「へー、そうなんですか」
と相槌を打ちながら、のどかはアパートまで送られた。
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