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一夜一夜にヒの一夜が消えました……
思い出に泥を塗ってしまったようだ
しおりを挟むなんだかわからないが、思い出に泥を塗ってしまったようだ……と思いながら、のどかは雑草図鑑を手に歩いて会社から出た。
あやしいあばら家に向かって歩くと、街から突然、住宅地っぽくなり、時折、空き地も見えてくる。
売地の看板が立っているので、そのうち、そこにも家が建つのだろうが。
この辺まで来ると、土と草の匂いもするなーと思いなから、のどかは初夏の空を見上げた。
令和らしい、いい天気だ。
……いや、令和らしいってのも変だが。
新しい時代にふさわしい爽やかな空だった。
そういえば、真っ昼間にこうして、空を見上げて歩くってなかなかない。
あ、此処も売地とのどかは草原を見る。
その手前、アスファルトの脇にある細い水路には、ちょろちょろとぬるそうな水が流れていてその上を雑草が覆っていた。
のどかは、その手に雑草図鑑があるにも関わらず、
なんかわかんないけど、いっぱい草、とだけ思って、それがなにかを確かめることもなく、通り過ぎかけたのだが。
ふと、なにかが気になり、戻ってみた。
途中から水路に蓋がしてあったのだが、その四角く暗いコンクリートの穴を水が流れていくのが目に留まる。
そこを見つめていたのどかの頭に洞窟の前で探検隊のような格好をした少年少女のイラストが頭に浮かんだ。
『日本不思議探検』の表紙だ。
そういえば、綾太に譲ったっ。
小学一年のとき。
私はもう何回も読んでるからって。
あの頃から親しくなったんだった、と思い出し、綾太に、
「思い出したよっ、『日本不思議探検』っ。
先に読みなよって渡したんだったよねっ」
とチャットアプリで送る。
するとすぐに、
「今かっ。
死ねっ」
と返ってきた。
……なんだろう。
この中高生のようなやりとり……。
でもまあ、社長となった今、このテンションで会話できるのは、社内では私だけだったのかもな。
それがよくもあり、悪くもあったのだろうが、と思いながら、のどかは明るい日差しの中で、たどり着いた我が家を見た。
こうして見たら、なにも怖くない、ただの草むらの中のあばら家だ。
のどかはとりあえず、全部の窓を開け、明るい光と風を通して、掃除してみることにした。
いや、風は通さなくても勝手に通っているんだが……。
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