あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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一夜一夜にヒの一夜が消えました……

若く美しい男が次々と放り込まれるであろう

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 初めて見た、お隣さん。
 こんな人だったのか、とのどかはその肌の浅黒いイケメンを見る。

 っていうか、何故、お隣さんが押入れから。

 押入れがお隣とつながっているのだろうかと思ったが、違った。

「これが、この部屋の呪いなのだ……」
と泰親が言う。

 浮世離れした美しさを持つ泰親の口から、呪い、という言葉が出ると、より一層おそろしい感じがする。

 やっぱり、この家を出ようっ、とのどかが思ったとき、朗々とした声で泰親が言ってきた。

「お前たちが封印を解いたせいだ。
 この部屋には、この先もずっと、若く美しい男が次々と放り込まれるであろう――」

 そのとき、軽快にのどかのスマホが鳴った。

「のどかー、あんた、コンパ行くー?」
と風子の声が聞こえてくる。

 呪いによって押入れに閉じ込められていたらしい、お隣のイケメンを見ながら、のどかは言った。

「ごめん、お金ない」

「そうなんだー?」
という風子に、

「ねえ、うちの家、呪いがかかってたみたいなんだけど」
と言ってみたが。

 コンパの人数集めで忙しいらしい風子は、いつものように適当な返事をしてきた。

「そう。
 大変ねえ。

 なんの呪い?」

「それがどうやら、若いイケメンが次々と投げ込まれてくる呪――」

「なにそれっ、行く行くーっ!」

 言い終わらないうちに風子が叫ぶ。

「今度の休みに行くわっ。
 イケメン捕獲しといてっ。

 今から書類配るフリして、社内回って、コンパのメンツ集めなきゃだから、じゃあねー」
と言って、ブチッと切れた。

 ……綾太にチクるぞ、と思いながら、のどかは切れたスマホを見つめ、呟いた。

「なんか、コツメカワウソが居る、というより素早く飛んできそうでしたよ」

「コツメカワウソが何処に居るのだ」
と泰親に言われ、

「いやいや、物の例えです」
と言ったのどかは、隣のイケメンが呆然とこの猫耳神主、泰親を見ているのに気がついた。

「あれっ? 見えてるんですか? お隣さん」

 イケメンは床に両手をつき、泰親を見上げながら、
「いや、さっきからぼんやりと見え始めて。
 また幻覚かと……」
と呟く。

 また幻覚ってなんなんですか。

 貴方は頻繁に幻覚を見るようなヤバイ感じの人なのですか、とお隣なので、多少の恐怖を感じる。

 猫耳になる程度に猫に祟られている神主は特に害はなさそうだが。

 生きたお隣さんが怪しい人なのは害がありそうだ、と思ったからだ。

 何者なのか知りたいが、しゃべりそうにないこんなとき。

 まず、自分から自己紹介したら、向こうも反射でするだろう、と思ったのどかは彼の前に座ると、向こうが床に手をついているので、こちらもなんとなく手をつき、頭を下げた。

「私、最近、隣に越してきました、胡桃沢くるみざわのどかと申します」
と挨拶する。

 泰親に、
「土下座か」
と言われながら。

 あ……ああ、とようやく正気に返ったらしいお隣さんは、猫耳神主から視線を引きはがすと、同じように手をつき、頭を下げてきた。

八神遼馬やがみ りょうまだ。
 そこの牛志野うししの署の刑事をやっている」

 ……うししの署。

 なんか楽しそうだな。

 うししの署の者だっとか言っても、迫力ないしな。

 っていうか、噛みそうだし。

 でも、しょうがないよな~、此処、牛志野台だから。

 おっと。
 そんな話したら、悪いか。

 100万回――

 もしかしたら、容疑者にも同じこと言われてるかもしれないし、半笑いで。

 此処は触れない方が良さそうだ。

 この人、強面こわもてだし、犯人を怒鳴るように怒鳴られたくない。

 まで考えたあとで、のどかはまた両手をつき、頭を下げた。

「よろしくお願いします」

「……お前が沈黙している間になに考えてたか想像つくんだが、まあ、突っ込まないでおいてやろう」

「刑事さんだったんですね」
と苦笑いして顔を上げ、のどかは言った。

「そう。
 今ちょっと、忙しくてな」

 できれば、警察の人は忙しくない方がいいのだが……。

 意外と物騒なのだろうか、この辺り、と思うのどかに八神は更に不安になるようなことを言ってくる。

「睡眠不足になると、よく幻覚を見るんだよ。
 この猫耳男も幻覚かと思った」

 大変ですね、刑事さん。
 でも、この猫耳男は私にも見えています、と思いながら、

「大丈夫です。
 私にも見えています」
と言って、

「いや、逆に大丈夫じゃないだろう……」
と言われてしまったが。



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