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一夜一夜にヒの一夜が消えました……
忙しいって罪なことですね
しおりを挟む泰親は笑いながら、
「此処の呪いにかかったものには私の姿が見えるのだ」
と言い出した。
「えっ? 私は?」
とのどかは訊いたが、
「お前はなんとなくだろう」
と言われてしまう。
なんとなくってなんなんだ……。
どんな曖昧な呪いと霊だ、と思ったとき、その呪いをかけられた八神が緊迫した様子で、泰親に訊いた。
「それで、呪いにより、此処に連れ込まれた俺はどうなるんだ……?」
「いや、特に、どうにもならないぞ。
此処に連れ込まれたことが呪いなのだ。
これで終わりだ。
帰れ」
と泰親は言い放つ。
沈黙して見上げている八神を見て、
「……なんだその不満そうな顔は、呪って欲しいのか」
と言い出した。
いや、貴方が呪っている本人なんですか?
呪いから人々を守るために此処に居たのでは……?
なにか呪いを説明する人に成り下がっているようだが、と思いながら、のどかは八神に訊いた。
「あのー、八神さん、あっさり呪いとか信じちゃってますけど。
刑事さんなのに、いいんですか?」
「いや、こういう仕事をしていると、いろいろと見るんだよ。
霊とか、呪いとか。
最初はそれに納得できる解釈をつけようとしてみてたんだが。
日々の生活に追われ、そういうものとも折り合った方がいいなと思い出したので、最近は放置だ。
こっちが幾ら調べてもわからなかった事件の犯人がいきなり、
『毎晩、被害者が夢枕に立って、首に絞められたあとが……』
と自首してきても、確かに、首にアザが残ってても、ああ、そうですかって」
「忙しいって罪なことですね……」
まともな判断能力なくすよな~、とのどかも思っていた。
年末、切羽詰まってこなしていた仕事が、深夜零時を前に終わったとき、いがみ合っている他部署の上司たちも混ざって、誰からともなく、ウェーブをやり始めたことを思い出しながら。
「八神さんも連休中、休めなかったんですね……」
「もって、他に誰が休めなかったんだ」
……誰なんでしょうね、とのどかは迷う。
あの人を人に紹介するのになんと言ったらいいのか。
……夫です。
いやいや、遠慮したい。
大家さんです。
これかな。
「此処の大家さんです」
「大家か、見たことないが……」
と八神は呟いたあとで、
「そうだ。
あの道の駅で買ってきたっぽい蕎麦、美味かったぞ。
ありがとう」
と礼を言われる。
「それじゃ、呪いも解けたみたいなんで、帰って寝るよ。
ようやく一息つけそうだからと思って帰ってたら、此処に連れ込まれたんだ。
まあ、ワープできたみたいで助かったが」
ポジティブな人だな。
「じゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
と言うと、
「見送らなくていいぞ。
勝手に帰るから。
じゃあ、よろしく、お隣さん」
と言って、八神は玄関に向かったようだ。
境の扉には鍵がかかっているからだ。
「靴がないっ。
呪いだっ」
と叫ぶ声が玄関から聞こえてきたが……。
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