あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

文字の大きさ
23 / 114
一夜一夜にヒの一夜が消えました……

なにがあったんだ……

しおりを挟む
 

「俺が来なかった二、三日の間になにがあったんだ……」
とキャットフードを手にしたのどかは貴弘に問われた。

「はあ。
 ヒトヨ ヒトヨニ ヒのヒトヨが尽きてしまいまして」
と言うと、なんだ、それはと言われたので。

 貯金の残高だという話をすると、
「……いくつかある通帳のうちのひとつか?」
と確認される。

「いいえ」

「……箪笥貯金でもあるのか?」

「この家の箪笥、私のじゃないです」

「それ、いい大人の貯金額か?」

「いやいや、もっと少ないときもありましたよ。
 これでも多かった方です」
とうっかり言って、経済観念と計画性のなさを暴露してしまう。

「で、ヒトヨ ヒトヨの何処のヒトヨがなくなったんだ?」
と確認され、

「最初のヒトヨです」
と言って、溜息をつかれてしまった。

「いや~、出来限り、お金かけないようにしたんですけど。
 引っ越し貧乏って言葉がありますが、本当ですね」
と言って、のどかは、はは、と笑う。

 もう笑うしかなかったからなのだが、貴弘は遠い目をして、
「貯金総額が141,421円な時点で、貧乏じゃないか……?」
と手痛い真実を突いてきた。

「まあ、生きてはいけてますよ~。
 職場に、中原さんっていう、綾太の秘書で、私のことが嫌いな人が居るんですけど。

 あの人に社食でその話聞かれちゃいまして。

 今みたいに溜息つかれて、財布を手に、
『いくらか都合しましょうか』
 って言われたときには、さすがにちょっと、終わったなって感じはしましたけどね」

 自分を嫌いな人間にまで同情されるとかどうなんだと思って。

「それで、昨日から、お隣の刑事さんと雑草煮て食べてるんですよー」
と近況を報告して、

「なんだって?」
と訊き返される。

「雑草煮て食べてるんですよ」

「そこはもう驚かん。
 その前だ」
と追及され、

「……お隣の刑事さんと一緒に雑草煮て食べてるんですよ」
と前の部分をつけてみた。

「刑事さんだって言わなかったでしたっけ?」
と言って、いや、問題はそこじゃない、と言われる。

「なんで隣の男とメシ食ってんだ?」

「それが珍しく、昨日の夕方、八神さんとバッタリ会いまして。
 ちょっと話してたんですけど。
 ふたりともお金がないことが判明しまして」

「この家には計画性のない奴しか住まないのか……」

 いやまあ、そうでなければ、こんなところに住まないか、と貴弘はあばら屋敷を見上げて呟いている。

 ぺんぺん草でも屋根に生えてそうな、立派なあばら屋だ。

 まあ、実際にあばら屋に生えているのは、ぺんぺん草ではなく、ハルジオンやヒメムカシヨモギだそうだが。

 ぺんぺん草のタネは、鳥に運ばれないし、飛んで移動したりもしないからだ。

 ……なのに、なんで、ぺんぺん草も生えそうなって言うんだろうな。

 荒地によく生えてるからかな、と思いながら、のどかはなんとなく、屋根を見上げた。

「で、その八神って刑事とメシ食ってどうしたんだ?」

「ああ、美味しかったので、残りをそれぞれ持ち帰って、朝も温めて食べました」
と言って、また、

「だから、そこじゃない」
と言われる。

「じゃあ、何処なんですか~」
と思わず、言ったとき、広すぎて日が差さない屋敷の中から猫の鳴き声がした。

泰親やすちかさんー」
とのどかは振り返り、猫を呼ぶ。

「……泰親さん?」
と貴弘が訊き返した。

 のどかの呼びかけに応えるように、仔猫がよちよちと走り出てくる。

 細く赤い首輪が映える白とグレーのふさふさの毛。

 淡いブルーとグレーの中間色のまん丸の瞳でこちらを見上げてくる。

 マンチカンとペルシャを交配したミヌエットの仔猫だ。

「まさか、此処に住み着いてたの、その高そうな猫だったのか?

 迷子なんじゃないのか?
 首輪してるし」

「いえ、首輪は私が買ってきたんです」

「1,421円しかないのにか……」

「いや~、首輪買ったから、なくなったんですよ~」
と言って、

「……お前、莫迦だろ」
と言われてしまったが。

 超絶可愛いので、この猫には絶対赤い首輪っと思って、つい、うっかり、いいのを買ってしまったのだ。

 ……まあ、中身は猫耳神主なんだが。




しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...