あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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一夜一夜にヒの一夜が消えました……

雑草料理に目覚めたんですっ

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 のどかたちは、おごる、おごらないでまだ揉めていたが。

 とりあえず、晩ご飯までまだ時間があるので、家を片付けるのを手伝うと貴弘が言い出した。

 庭先を見回し、
「とりあえず、草むしりでもするか」
と言う貴弘にのどかは、

「いや、食料なんで」
と言う。

「……草むしりでもするか」

「いや、いざというときの食料なんで」

「本気か」
と言われ、のどかは言った。

「私、引っ越し貧乏の中、目覚めたんですっ。
 雑草料理にっ」

「いや、まだ、ヨモギ餅と区別のつかない雑炊しか作ってないだろ」

「私、このあふれる雑草を使って、雑草カフェをやろうかと思うんですっ。
 なにせ、材料はタダ!」

「今すぐうちに行こうか。
 うちのマンションは一階は三つ星の店で修行してきたシェフがやるレストランだし。

 部屋の中も最新の設備が整ってるぞ。

 それから、これは俺の預金通帳。
 これやるから、目を覚ませ」
と通帳で額をはたかれる。

 ……札束で頬を張るってよく聞くけど、巨額の預金が入ってそうな通帳で額をはたかれてしまいましたよ、と思いながらも、のどかは言った。

「今回、お前の顔など見たくない、と言われてクビになって目が覚めたんです。
 雇われ人だと、いつ、社長の勝手で、クビになるかわからないって」

「目覚めたどころか、理性が羽毛詰めすぎの布団に埋もれて、爆睡し始めたようにしか思えんが……」

 っていうか、そんなのお前んとこの会社だけだ、と言う貴弘に、そうだ、とのどかは手を打ち、言った。

「なにか雑草料理でもご馳走しますよ」

「遠慮しよう」

「雑草料理でも」

「遠慮しよう。
 っていうか、お前、ネットで調べないと、なにも作れないんだろうが」

「いやいや。
 あれからいろいろ勉強したんですよ。

 この庭にはさまざまな種類の雑草があるんですよ。

 いろいろご馳走できそうですよ」
と言いながら、のどかは縁側に置いていた雑草図鑑を手に、庭木の側で繊細な薄ピンクと白の花を咲かせていた植物を指差し、言った。

「これはイカリソウです。
 花の形がいかりに似ているから、その名がつけられたそうです。

 昔から、生薬としても使われているそうです」

 ほう、と言った貴弘に、のどかは言う。

「別名、淫羊霍いんようかく
 飲むと羊がみだらになるそうです」

「……俺は羊じゃない。
 そして、お前はそれを俺に飲ませて、どうしようというんだ」

 淫らになってやろうか、と顔を近づけ、言われる。

 いやいやいや、と本に書いてあったことをそのまま読んだだけののどかは苦笑いしながら後ずさった。

「そのくらいいろんな草があるってことですよ。
 薬効成分のある草も多いですしね。

 雑草まみれの庭も、見方を変えたら、お宝の山ってことですよ」
と言って、

「庭掃除しない奴の言い訳にしか聞こえないが」
と言われてしまう。

「ともかく、このままじゃ歩くのもままならんだろ。
 貧乏草だけでも抜いてやる」
と貴弘が腕まくりしかけたとき、ぎゃーっと家の中から悲鳴が聞こえてきた。

 慌てて、中に入ろうとしたのどかは貴弘に止められる。

「俺が行く。
 外で待ってろ」

られますよっ」
と思わず、叫んで、

 いや、誰に? なにに?
という顔をされた。

 いや……なにかにですよ。

「そのくらいの気構えで入ってかないと、この屋敷は危ないです」
と自らが住む家を評して、のどかは言う。

 だが、家に入るまでもなく、サングラスにマスクをした若い男が靴も履かずに走って玄関から出てきた。

「どうしましたっ?」
と思わず訊いたのどかの横で、貴弘が、

「お前は誰だっ?
 のどかの愛人かっ?」
と叫ぶ。

 何故だ……と思うのどかの前で、男は貴弘の勢いに、中に戻ろうとしかけて踏みとどまる。

 あやしいあばら屋敷より、人が居る庭先の方が安全だと思ったようだ。

「違いますっ。
 ただの泥棒ですっ」
と叫んだ男に、

「そうか。
 ちょうどいいっ。

 隣に刑事が居るぞっ!」
と貴弘が言う。

「あの~、八神さんなら、今、居ません」

「なんだっ、役に立たない刑事だなっ」
と憤慨して貴弘は言うが。

 いやいや、あの人別に、此処を警備しているわけではないですから……。

 そこで、誰かにこの恐怖を聞いて欲しいと思ったらしい泥棒が語り出した。

「何処からでも入れそうなあばら屋なんで、しめしめと思って、人気のないときに入ってみたら、物凄く荒れていてっ。

 先客かっ、と思って、逃げたはずなのに、気がついたら、また此処にっ!」

「さては、この泥棒、イケメン様ですね……」

 どうやら、イケメンが放り込まれる呪いにかかったようなのだ。

 そのとき、
「なんですってっ?
 あれが呪いのイケメンッ?」
と後ろで声がした。

 封筒をつかんだ風子が立っていた。

「どうしたの?
 仕事じゃなかったの?」

「休みなく働くことに疲れたのよっ。
 だから、急ぎの郵便出してきますって言って出て来たの。

 息が詰まりそうだったから。

 あんたんちで、呪いのイケメン見て癒されようと思ったのよ」

 はい、五千円、と封筒をくれた。

 いや、呪いのイケメンじゃなくて、イケメンが放り込まれる呪いなんだが……。

 そして、呪いのイケメンに癒されたのでいいのか。

 呪われているのに……。

 仕事の疲れ、恐ろしい……と思うのどかの前で、風子はイケメンらしき泥棒に向かって言う。

「逃げていいからっ。
 一度、そのマスクとサングラス、取って見せなさいっ。

 私の好みのイケメンじゃなくても、土曜出勤で疲れ倍増の今なら許可よっ!」

 ひー、と思いながらも、風子がイケメンを惑わせている間に、のどかは八神に電話する。

「八神さんっ、泥棒ですっ」

「警察に言えっ」

「でも、そこ、ウシシシシの署ですよねっ」

「シが多いっ!
 っていうか、俺は強行犯係だし、今は聞き込みで、よその区に居るんだ、バカモノッ。

 110番しろっ。
 近くに居る警官が駆けつけるからっ。

 それか近くの交番に駆け込めっ」
と言われる。

「あっ、わかりまし……」

 た、という前に、貴弘が風子にマスクをはがされそうになって動揺している泥棒を足払いして抑え込んでいた。

 ……なんですか、格好いいではないですか、と思いながら、つい、ぼんやり見ていたのどかの手許で、八神が、

「どうなった、お隣ーっ。
 早く警察に電話しろっ。

 もう俺が警察にかけてやるっ。
 切るぞーっ、お隣ーっ」
と叫んでいた。

 いや……名前、覚えてください。



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