35 / 114
一夜一夜にヒの一夜が消えました……
此処を社員寮とする
しおりを挟む「待て」
勝手に八神が話をまとめようとしているところに、貴弘が割り込んできた。
「それじゃ、お前とのどかが一緒に住んでるみたいじゃないか」
いや、今もある意味、同じ家に住んでるんだが……と思いながら、のどかは貴弘を見たが。
人の話を聞かない八神は、すでにその話をまとめようとしている。
「そうだ。
じゃあ、お礼に、カフェが出来たら、朝食とか安く作ってくれると助かるな。
どうも栄養が偏りがちで」
と言ってくる。
「それはお安いご用ですけど。
でも、申し訳ないです。
あ、安くとは言わず、タダにしますよ、朝ごはん」
「毎朝、ヨモギの雑炊とかはやめてくれよ。
まあ、身体にはよさそうだが」
ははは、と八神が笑う。
「第一、なんで雑草カフェなんだよ。
普通のカフェにしろよ」
「だって、家の前に雑草がたくさんあるのにもったいないじゃないですか」
「客が来る前に、庭は綺麗にするんじゃないのか。
そしたら、雑草何処から仕入れてくるんだ」
「大丈夫ですよ、裏にも雑草いっぱいだし」
とのどかが笑ったところで、
「いや、掃除しろ……」
と貴弘がまた割り込んでくる。
「そして、夫で大家な俺を置いて、勝手に話を進めるなっ」
いや、話に乗ってきてくれないからですよ、と苦笑いしながら、のどかが思っていると、貴弘が、
「のどかがお前と住むのなら、今日から俺も此処に住むっ」
と言い出した。
ええっ? と二人で振り返る。
「何故ですか」
と言うのどかに、貴弘は、
「今日から此処を社員寮にする」
と宣言した。
「此処をかっ。
どんな福利厚生のなってない会社だっ」
と八神が叫ぶ。
いや、それだと妻の福利厚生もなってないことに……と思いながら、のどかは言った。
「此処を社員寮とか無茶ですよ。
別荘とか保養施設ならまだわかりますが」
「わからない」
「そっちの方がわからない。
なにも休まらない感じがする」
と貴弘と八神に言われてしまったが。
「っていうか、社長が社員寮に住むとかどうなんですか」
「いいじゃないか。
うちは、まだまだ社員も少ないし」
「大家が住むとかどうなんだ」
と八神が言う。
「いいじゃないか、点検も兼ねて。
っていうか、なんだ。
お前たちは俺を追い出したいのか。
のどか、お前は俺じゃなくて、その男と住みたいのか」
と貴弘が詰め寄ってくる。
いや、そうじゃないですよ。
猫耳神主さんや八神さんと違って、貴方と住むのは、なんだか照れてしまいそうだからですよ、と思っていたが、言わなかった。
……言うべきだったかもしれないが。
「ともかく、今日から此処はうちの会社の社員寮にする」
と貴弘は宣言した。
「待て。
刑事の俺が住んでるが」
と言う八神に、
「防犯上いいんじゃないか?」
と貴弘は言い返す。
えーと、それだと、まず、何処になにを申請したらいいのやら。
此処、雑草カフェ?
社員寮?
社員寮の食堂?
「……誰でも入れる社員寮の食堂兼雑草カフェなんですかね」
とのどかは力なく呟いた。
なにか思っていたのとは違うような、と思うのどかに貴弘が言う。
「いいじゃないか。
これで、毎日、一定数の客は見込めるわけだから」
「一定数の客って……」
社長と八神さんと、あと、泰親さんにお供えものするくらいしか需要がないような。
他の社員の人たちが、素敵なワンルームマンションを捨てて、この社員寮に来ることなどなさそうなのだが……。
「でも、毎食、雑草は困るな」
と男たちの中では、すでに話は決まったらしく、そんな文句を言い出した。
私が雑草カフェを開いて自立する話が、何故、横滑りしてこんな話に……と思いながら、
「雑草。
戦のときには貴重な食料だったんですよ……」
とのどかは力なく呟く。
二人に、
「今、戦国時代じゃない」
と言い返されてしまったが。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。
ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。
意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。
「あ、ありがとうございます」
と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。
あれは夢……?
それとも、現実?
毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる