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妻が俺に惚れる雑草はないのだろうか
社長に秘密ができてしまった……
しおりを挟む「どうした、中原」
月曜日、社長室で綾太にいきなりそう言われ、今日のスケジュールの報告をしていた中原は、思わず、
「は?」
と訊き返す。
「いや、珍しく心此処にあらずのようだが」
と言われ、いえ……と言いはしたが。
内心、困ったな。
社長に秘密ができてしまった……と思っていた。
怪しい呪いでのどかの家に連れ込まれ、のどかが向かいのビルの成瀬社長と結婚していることを知ってしまったからだ。
いやいや、胡桃沢が結婚したことは、まだ、黙っておくべきだ。
社長の心を乱さないために――
と中原は思う。
呑気な胡桃沢は気づいていないようだが、社長は何故か、あのマヌケな幼なじみが好きらしい。
しかし、見た目はともかく、あの頓狂さでは、ちょっと社長夫人にはふさわしくないと思い、社長から遠ざけようとしてきたのに。
何故、切れ者の成瀬社長があれを妻に……?
一緒に居ると、一気に気が抜けそうな気がするから、仕事の緊張が解けていいのだろうか……?
というようなことを失ったイタリア製の靴よりに気にしていた中原だったが。
うっかり、社食で、のどかと出会ってしまった。
そういえば、こいつ、まだ会社に居たな……と思う。
うっ、中原さんと向かいの席になってしまった、とのどかは固まっていた。
月曜日の社食はいつになく混み合っていて、他に席が空いていなかったのだ。
窓際に中原がひとり座っていたのを見つけ、風子が、
「あそこにハーレムがっ。
行くわよっ」
と言い出した。
いや、あそこにみんなで行ったら、ハーレムなのは中原さんの方では?
と思いはしたが、なんだか言いたいことはわかる気がした。
日当たりのいい窓際の席にクールな美形がひとり座っている。
中原ひとりで、風子的には、ハーレムな感じなのだろう。
それなら、うちに住めばいいのに、とのどかは思う。
なにせ、『若く美しい男が次々と投げ込まれる』呪いがかかっているらしいからな。
大抵、わーっ、と悲鳴を上げて、走り去っていくだけなんだけど……。
そんなことを考えている間に、風子が、
「中原さん、此処いいですか?」
ともう訊いていた。
顔を上げた中原は、のどかに気づき、微妙な間を作ったが。
他に席も空いてないからだろう。
「どうぞ」
と言った。
きゃーっ、と言った女子たちだったが、中原はあまり親しみやすいタイプではないので、みんな中原の目の前の席は遠慮して座らない。
ちなみに風子は遠慮なく隣に座っていた。
なにか押し付けられる形で、のどかが中原の前に座ったわけなのだが……。
うう、中原さんが正面に居て食事とか。
なにも喉を通らないような、と思いながら、栄養豊富でカラフルな定食を食べる。
やはり、ヨモギ雑炊とは一味違うな、と思いながら。
料理は、やっぱり、見た目の綺麗さが大事だよなー。
食欲をそそる感じのカラフルさっていうか。
その点、雑草は地味だろうか。
いやいや、やり方によっては……。
などと考えているのどかを気がつけば、中原がじっと見つめている。
ななな、なんなのですか、中原さんっ。
さては、イタリア製の靴を弁償しろとかっ?
そうして差し上げたいのはやまやまなのですが。
給料と退職金が出るまで、お金ありませんっ。
あっ、そうだっ。
失業保険も出るんだった。
「そうだ、ラッキー」
と中原の顔を見たまま、思わず言って、
「なにがだ……?」
と言われてしまう。
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